



公共交通で美術館へ行くには、JR琵琶湖線の守山駅又はJR湖西線の堅田駅から発車するバスで向かいます. バスに揺られるのが苦手な方は、距離の短い堅田駅からのルートを推奨します. 琵琶湖の東西を連絡する『琵琶湖大橋』付近の湖岸に建つこの美術館は、運送業界の大手『佐川急便』の創立40周年を記念して1998年に開館しました. なぜ佐川の美術館が守山にあるのかというと、サッカースクールに代表される佐川のメセナ事業がここ守山を拠点としているためです.
この美術館では館内でチケットを買うのではなく、敷地手前にあるチケット売り場から券を購入して入場します. つまりチケット購入なしに外観の撮影はできません. 売り場は庇の深い切妻屋根で覆われた小屋のような建物ですが、屋根は金色に輝くグレー調のものとなっており、重く冷たいイメージを感じさせながらなぜか落ち着きを感じてしまう外観です. バス停は3枚の壁と1枚の屋根という、シンプルながらも非常にスタイリッシュなデザインです.




チケットを購入して敷地内へと入っていきます. 真っ先に見える美術館の本館は、例えるならば『水上の神殿』です. 水庭に浮かぶように建てられる本館は手前と奥にそれぞれ2棟ずつあり、両棟にかけられた銀色に輝く切妻の大屋根は百メートル先までグーッと伸びる印象的なもの. 更にその屋根から伸びた非常に深い庇を支えるため、外側に丸柱を設けて列柱を作り出しているのも特徴で、日本の切妻造と西洋の神殿様式を併せたような美しい外観を作り出しています.
佐川美術館は1998年当初からある2棟の「本館」と2007年に増築された「樂吉左衞門館」の2施設によって一体的に運営されており、そのどちらもがスーパーゼネコンの一角 竹中工務店の設計によるもの. 日本建築のような佇まいながらも床・屋根・壁に至るまでグレーで彩られた巨大な神殿を水上に浮かばせるダイナミックな演出は、国内の建築・美術館雑誌でも高く評価され数々の賞を受賞.
「竹中大工道具館」と並んで竹中を代表する美術館建築です.




季節が冬明けということもあって周辺の木々は殆ど枯れてしまい、天気も曇り模様. 加えて美術館の見た目もグレーなため、自分の視界内のほとんどがグレーで支配されるというなんとも奇妙な色体験をしながら本館入口へと足を運んでいました. 暖かみや落ち着きのある木の空間とは真逆となるグレーの空間というのは、なかなかに強烈なものを感じます.
列柱が並んだ庇の下を歩くアプローチは非常にいいもので、太陽が出た時には水盤に反射された太陽光が軒裏に投射され、何十メートルにもわたる見事な水の投影を見ることもできます. 玄関を入った先にあるエントランスホールは、この巨大な切妻断面を唯一撮影できる希少な場所です.





館内は先ほどの2棟の本館を連絡通路でつないだ中庭型の回廊がメインとなっており、その回廊に沿って配置された展示室を巡るプラン. 通路のコンクリート壁は三角形断面の水平模様をつけ、水平性が強調されたデザインになっています. 廊下一面に並んだガラスから水の張られた中庭を身近に望むというのも館内ならではの特徴で、特に東側の連絡通路は窓枠が途中に一切ない巨大なピクチャーウインドウ
(写真4枚目)となっており、巨大な切妻屋根に挟まれた水の中庭を心ゆくまで眺めることができます.
本館は仏教やシルクロードを題材に描いた日本画を手がけた平山郁夫
(ひらやま いくお)氏の作品を展示した「平山郁夫館」と昭和期に活躍した彫刻家 佐藤忠良
(さとう りゅうちょう)氏のブロンズ作品等を展示した「佐藤忠良館」の2つの常設展示館に加えて特別展示室が置かれています. 特別展では西洋美術や日本画に留まらず、ウルトラマンやガンダムなどのサブカルチャーなど幅広いジャンルを取り扱っているのも特長です.





最後は美術館の増築棟でもある「樂吉左衛門館」です. 千利休も好んで愛用したとされる『樂焼』の茶碗をつくる樂家の当主 十五代樂吉右衛門
(らく きちえもん ※襲名制)氏の作品を展示する施設として2007年に開館しました. 展示室は水盤下の地下フロアにあるため階段を降りていきます. 階段手前のガラスからは、樂氏本人も創案に関わった茶室「俯仰軒
(ふぎょうけん)」
(写真2枚目:右側の小屋)が確認できます.
地下二階にあるホールは、グレーの明るい本館とは対照的にわずかな照明だけが室内を照らす暗い空間. ホールの奥のスリットはトップライトになっており、地上の水模様を壁面に映しながら館内をほんのりと明るく照らす幻想的な空間になっていました. 樂氏は『闇への下降』を根底としてこの館の設計を考えたと述べており、今までは露地を介していた非日常空間としての茶室を『闇』の視点から新しく組み直した現代版茶室空間と解釈することができそうです.
先ほど紹介した茶室「俯仰軒」と地下に沈み込む茶室「盤陀庵
(ばんだあん)」へは事前申込の上で見学可能(別途1000円). 円筒状にくり抜かれた「水露地」や立礼で使用される「寄付」と呼ばれる部屋など、光と闇が絶妙なバランスを持って交わる非日常感満載の茶室世界を体感できます. 琵琶湖のほとりに建つ神殿のような本館と闇の非日常世界満載の樂吉左衛門館、興味が湧いた方は是非. ではでは今回はここまで〜
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