



美術館があるのはJR天王寺駅や近鉄阿倍野橋駅が位置するメインエリアの北東に広がる『天王寺公園』の敷地内です. 写真1枚目は
「あべのハルカス」の空中展望台から公園全体を撮ったものですが、周囲のビル群と見比べると非常に広大な公園であることがわかります. 公園中央付近にあるのが美術館で、その左側(西)エリア一帯は『天王寺動物園』、下側(南)に広がる広大な芝生スペースは2015年10月に再整備されたエントランススペース『てんしば』です.
写真2枚目からは『天王寺動物園』入口へとつながるブリッジから撮影した美術館の写真を掲載しています. 中央部分はまるで蔵造りのような妻入りの佇まいで、上部分の窓も虫籠窓をモチーフにしたかのようです. 動物園側の入口からでは美術館本館に向かうまでに階段を登ることになりますが、車椅子の方は入口右手にスロープが設置されていますのでそちらをご利用ください.





階段を昇って美術館本館の前までやってきました. この美術館は以前この場所にあった住友家の『茶臼山本邸』の敷地が大阪市に寄付をされたことで敷地内に計画され、設計を大阪市営繕課が手がけました. 元々この美術館は設計コンペを実施しており
「京都市美術館」を手がけた前田健二郎氏の案で建てられることが決まっていましたが大阪市の財政難による影響から設計者を大阪市営繕課に変更し、その直後に世界恐慌が発生したことで工事が長期中断. 1914年の計画決定から22年後の1936年にようやく完成をみました.
コンクリート造の上に瓦屋根がのる『帝冠様式』の建物ですが、西洋的な装飾要素は中央部の窓レリーフ
(写真2枚目)などの一部だけと全体的にモダニズムな雰囲気のある、純粋な帝冠様式からすれば珍しい外観です. これは設計した伊藤氏がモダニズムの建築家だったことが一因として考えられます. モダニズムからすれば装飾の帝冠様式は対の様式です. コンペ時からあった帝冠派の前田案をベースとして、伊藤氏らがモダンテイストで収めたのでしょう.
本館外壁は下から石・タイル・漆喰?の3層仕上げ
(写真4枚目)で、上にあがるほど色のトーンは明るくなっています. 一番下の石貼りにある窓がやたら落ち込んでいるなと思って近くから見たら、そのフロアは半地下になっていました. 本館の左側(北)に回り込むと美術館の表札
(写真5枚目)があるのですが、左書きのまま残っているのが時代を感じさせます.





それでは本館に入っていきます. 本館は中央部の吹き抜けとなったエントランスホールを介して、建物両翼に配置された展示室を巡回する観覧動線になっています. エントランスにはシャンデリアが2個も設けられ、空間の豪華さや絢爛さを象徴しているようです. 吹き抜けを囲む列柱は頂上部分でアーチを成しているのですが、少し波打たせた多弁式のアーチ
(写真3枚目奥側など)になっているのがこの美術館ならではの特徴です.
2階へ上がるとその奥には締め切りになった扉と格式高そうな段差
(写真5枚目)があります. かすれた文字を左読みすると『特別応接室』と書かれており、皇室などの来賓用の応接として使用されていたのだと思います. 展示室に関して特記したことを述べるのであれば、個人的ながら市松張りの木床と展示室内の匂いから「あぁ、昔の小学校ってこんな雰囲気だったな〜」という妙な懐かしさを感じるそんな空間でした.





さらにこの美術館には「地下展示室」が存在するのですが、建築的には謎な仕様が多いのが面白いところです. まず初めに写真2枚目のエントランスの扉ですが、よく見るとガラス部分が台形で、その奥に見える上部分の仕切り壁も途中で途切れています. 更に3枚目の階段は中心軸から少し右にズレた位置に配置され、幅広く設えた階段は途中から右方向にガクンと曲がって踊り場の右半分が行き止まりになってたりと、左右対称だった本館からは想像できないズレっぷりです.
写真4枚目は階段の途中からエントランスの扉を写したものですが、一体なぜこの仕様になったのでしょうか. このタイプの外観であれば地下も左右対称にと個人的には思いそうなのですが、なぜこうなったかの経緯などの文献は見つかりませんでした. 誰か知っている方がいればご教授お願いします. 各展示室へ続く廊下は円筒型ヴォールトが奥まで続き、橋の壁には鏡が設置されているため延々と廊下が続くような仕掛けが施されていました. 中でもソファーの上のトップライトから青色の光が差し込む光景は印象的な仕掛け
(写真5枚目)です.
今回の説明はここまでです. 現代の美術館と比較すると一世代前の美術館という感じもありますが、こういうレトロクラシックな美術空間に入り浸ってみるのもいいのではないでしょうか. 「あべのハルカス美術館」と並ぶ天王寺の美術スポットに是非、ではでは今回はここまで〜
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