



写真は主に南東側から見た外観を掲載しています. 博物館は万博公園のほぼ中心に位置しており、「太陽の塔」のある中央エリアを北に進んだ先に見えてきます. グレーのタイル張りで覆われた建物が並び、その所々にメタリックな円筒がポツポツと建っており、なんだか工場っぽい見た目です. タイルの表面
(写真3枚目)をよく見ると、正方形状の小さい突起が規則正しく並んで取り付けられています. 外壁としてのアクセントでしょうか、これはこれで面白い仕様です.
1970年の大阪万博の跡地が文化公園としての整備が決まったのを受け、その中心施設として建てられたのがこちらの博物館. もともとは後に日銀総裁となる民族学者 渋沢敬三
(しぶさわ けいぞう)氏が学生時代に家の車庫の屋根裏をミュージアムとしたことがはじまりで、戦争や経営難に遭いながらも約半世紀を経て今の場所に完成しました. 世界各国が参加する万博の跡地に、世界の民族学を展示する博物館を建てるというのは相性が良かったのでしょう.



博物館側の南西方向までやってきました. こちら側からは先ほどの位置からは見えなかった空中ブリッジ
(写真2枚目)を確認できます. 写真を見て感じた方もいるかと思いますが、この博物館すごく広いです. 日本にある美術館・博物館の建物は大きいタイプでも幅120mほどなのですが、こちらの建物全体の幅は一番長い東西方向で約250mほどと、実に倍以上の広さがあるので移動が大変でした.
この博物館の設計に携わったのは建築家 黒川紀章氏です. 黒川氏といえば「中銀カプセルタワービル」に代表される『メタボリズム(新陳代謝論)』の中心人物で、この博物館もメタボリズムの思想を反映させた作品です. 写真3枚目は「EXPO'70パビリオン」内で撮影した1980年代の上空写真です. 黒川氏は周囲に展開する1辺40m角の「ロ」の字型ユニットを考え、このユニットをヨコに増築(増殖)させていくように計画しました.
そこから約40年後となる現在では一部増築を加えた4ユニットが増築され、博物館は有機的な成長を遂げています. 先ほどの空中ブリッジもその増築に伴って取り付けられたものです. 建物の更新ではないため厳密な新陳代謝ではありませんが、黒川氏が狙った『成長する博物館』というアイデアが見事に体現されています. 一度も取り替えがない中銀のビルと比較すると、成長という動きがあっただけでもこちらの方が成功しているようにも見えてしまいますね.





本館入口前の広場までやってきました. 左右が手前に張り出した小ユニット、奥に見える水平連続窓が特徴の大ユニット、さらにその上にある円筒に至るまで左右対称なのが実にイイです. トップ写真中央にある博物館名が記された部分はただの壁ではなく、裏を見ると水が段々上に降りる仕掛けになっています
(写真2枚目). 出入口の扉は左右にあるのですが、実際に使用されているのは左側のみで、右側はミュージアムショップの場所として締切のようです.






では館内へと入っていきます. 展示室へはエントランス中央にある階段を進むのですが、その前にこのエントランスの天井
(写真2枚目)に一度目を通してみてください. アルミ合金の鋳物で象られた人の指紋のような意匠は、民族を構成する人間の意志を象徴しているかのようです. 鋳物ということで鋳型の作成が大変そうだな〜と思って調べてみると、当時はゴム板を曲線の型として鋳型にすることで複雑かつ何十パターンもの型を実現させたそうです.
階段の踊り場から見える段々状になった遺跡のような中庭は『未来の遺跡』
(写真4枚目)とよばれる野外空間ですが、中に入ることはできないようです. 展示室に向かう廊下の脇に並ぶ近未来感漂うカプセルブース
(写真5・6枚目)も黒川氏がデザインしたもの. 機器類は更新されているようですが、デザインは77年の竣工時から引き継がれるもので、当時の未来イメージを色濃く残すレトロフューチャーなデザインとなっています. 来たら一度は座ってみることをお勧めします.





それではメインの展示室です. 観覧料は大人420円ですが、割引制度が充実しているので公式サイトで一度確認してみてください. 展示室内
(写真2・3枚目, 4・5枚は休憩スペース)には世界の民族の道具・民族衣装や儀式の映像などがビッシリと展示され、中には4m級の巨大な船やバスが実物大で展示されるのは圧巻ものです.
訪問日以前に火災があったらしく、展示室の半分ほどが閉鎖状態
(写真1枚目)でしたが、半分ほどの公開スペースで1時間30分は見ていたと思います. 全部開いていたら3時間で見回れたかどうか、兎にも角にも民族学に関する資料の膨大さではこの博物館に敵うものは国内ではないと思われます. メタボリズムの建築家が目指した『成長する民族ミュージアム』に是非一度、ではでは今回はここまで〜
- 関連記事
-
コメント