




郵便局は三条通と東洞院通の交差点の角地に建ち、一本隣の烏丸通りからも特徴的な赤レンガの外観を確認できます
(写真1枚目). 私はこれを初めて見たとき、数件隣に建つ辰野金吾氏の「京都文化博物館別館」と勘違いをしてしまうというミスを犯してしまったのですが、辰野氏の赤レンガ建築に劣ることのない見事な煉瓦造りのファサードだなと、当初のミスも含めて感心していました.
外観は19世紀初頭に流行ったネオルネサンス様式. 建物のメインの入口である正面玄関
(写真3枚目)は三条通側の中央にありますが、現在は締め切られています. 外壁は三条通側の両端2カ所と、東洞院通の中央1カ所がボコッと前面にせり出し、コーナー部分を『隅石』で設え、屋根部には細やかな彫刻が施された青銅装飾
(写真5枚目)が置かれます. これが今でも郵便局として現役なことに驚かされます.
こちらの設計を手掛けたのは逓信省営繕課の吉井茂則氏と三橋四郎氏. 逓信省といえば吉田鉄郎氏を筆頭とした戦後モダニズム建築を想像する人も多いですが、その一世代前となるこちらの時代でも逓信省は建築界の一線をリードするエリート集団だったようです. 一般的にはこちらの2名の共作とされる場合が多いですが、吉井氏は途中で欧米視察へ飛ぶため、実質的には三橋氏が主導して完成させたと考えられています. 竣工当時は『京都郵便電信局』という名前でした.




こちらは主に西側の東洞院通から撮影した外観です. 三条通ということで自然と辰野氏の別館と比較してしまうのですが、ふと辰野氏と比較すると繊細な装飾が少ないな〜と考えました. しかし考え直せば、装飾を構成するものは単純なのが多いながらも、全体としては辰野氏に引けを取らせない程の豪華さを実現させているということ. 簡素化するだけならチープなものですが、要所要所を丁寧に扱うことで全体に豪華さを与える部分に、この建築の凄みを感じさせます.
1998年には公共建築百選に選定されるほど評価の高い建物ですが、実は1973年の改築計画では取り壊される予定でした. 後にこれは建築学会や郵政省を含めた反対運動へと発展し、最終的には
レンガの外観を残したまま、内部を丸々建て替える『ファサード保存』を日本で初めて導入して保存されました. この『ファサード保存』は現在も歴史建造物の保存方法として多用されており、その意味では日本の建築保存技術の大きな一歩を象徴する事例としても知られています.





それでは内部へ入っていきます. 先述の通り、内部は1978年の改築時のものなので竣工当時のオリジナル要素は少ないですが、壁面には当時の外観保存の写真を「壁面博物館」
(写真1・2枚目)として展示しています. 当時としては壁だけを保存するというのは未踏の挑戦だったことでしょう. 余談ですが壁に鉄骨をつけた写真を見ると、今も文字通り『壁と骨組だけ』で神戸に残る「旧第一銀行神戸支店
(設計:辰野金吾)」を思い起こしてしまいます.
あれどうなるのでしょう…博物館の他には改築部分も含めた全体模型
(写真3枚目)、そして改築時に見つかった平安期の出土品
(写真4枚目)が展示されていました. 説明に記された『明治の下から平安が』というのはなかなか秀悦なタイトルでした. 内部から見た中央玄関
(写真5枚目)は三角形のペディメントが上に乗ったデザイン. ここは改築部のはずなので竣工時の元デザインを反映させたのかはハッキリしないところですが、これも数少ない内観装飾です.
京都三条通に残り続ける近代レトロな郵便局建築は、当時の保存を願った人たちの熱い意思と当時の保存技術を成し遂げた技師たちによって保存され、三条通を代表する建物のひとつとして多くの人々に親しまれています. 興味が湧いた方はぜひ一度訪れてみてください. ではでは今回はここまで〜
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