2016/07/05




滑り台のような傾斜が特徴的な中央入口、そこから両翼に広がる真っ白な校舎. 『宇宙船』や『要塞』とも喩えられるその外観は、町営バスの車窓(トップ写真)からでも強烈なインパクトを与えます. 校舎は地区周辺の景観を尊重し、裏山の傾斜に馴染むような外観となっています. ツアー当日はドラマ?の撮影があり、関係者の方々が校舎前のスタンド席(写真4枚目)に腰掛けていました.
ここで直島文教地区を総合的に手掛けた建築家 石井和紘(いしい かずひろ)氏について少しだけ. 石井氏は当時東大で丹下研究室とライバル関係にあった、建築計画学の創始者としても知られる吉武泰水(よしたけ やすみ)氏の研究生として直島を訪問. 24歳という若さで処女作であるこの小学校を設計し、後に『直島建築』と称される一連の公共施設を手掛けていくことになります. 直島以外では学会賞を受賞した「数寄屋邑」や熊本の「清和文楽館」が有名です.
ガイドさんの解説によると、校庭から校舎の最高点までの高さは18mもあるそうです. これは5階建てビルに相当する高さなのですが、説明なしではそこまで高さのある建物には感じさせません. もう一つ語ってくれたのは、この広大な土地の造成に関してです. 直島町は建設前に、この土地一帯を自衛隊の演習場として提供したそうです. そうすることで、演習場として造成した費用は全て国負担となり、直島町はこの広大な土地の造成をタダで済ませることができたそうです.





ではここからは、このツアーで特別公開された構内をご紹介していきます. 玄関を入るとすぐ階段、さらに奥にも階段が続く様子(写真1枚目)から、軽い山登りをするようなワクワク感があります. 校内図(写真2枚目)をみると平面は綺麗なシンメトリーで、クラスルームは裏手にそれぞれ配置されています. 階段を上がってすぐ右手には中庭(写真3枚目)がみえてくるのですが、あの要塞のような風貌から中庭があるなんて全く想像していなかったので、これには驚きでした.
その反対側(左手)には緑のカーテンで覆われたスペース(写真4枚目)がみえますが、こちらは体育館です. 学校の体育館というと校舎からは独立して建っているのが一般的ですが、こちらは校舎内に丸ごと収めてしまっているのが凄いですね. 竣工時は体育館に間仕切りは取り付けられず、中庭と体育館が一体的に繋がるように設計されていたようですが、風が吹き荒れるなどの問題から後に間仕切りが設置されたようです.







次に構内中央の螺旋階段を昇って、最上階の図書室へとやってきました. 高さ7〜8mはありそうな真っ白い大空間を、丸型に切り抜かれたトップライト(写真3枚目)が緩やかに照らしています. 一般的なハコ型の図書室とは天と地の差を感じるほどの気持ちいい開放感. 当時の直島町が裕福だったからこそ成せた業とはいえ、こんな素晴らしい図書館で学ぶことのできる直島の子供達は幸運だと思います.
図書室はこの大空間だけではなく、時計が掛けられたスペース(写真5枚目)まで続き、校庭を見下ろすことができます. ここでガイドさんから解説があり、竣工時の外壁は今のように真っ白ではなく、打ち放しだったようです. しかし当時は良質なコンクリートを作る大型ミキサー車を瀬戸内海の離島まで運ぶのは至難の業で、結果的に質の良いコンクリートが練れなかったことから雨漏りが頻発. 後年に防水工事を施した際に、外壁を白く塗ったそうです.





図書館を後にして、構内を色々と撮影した写真を掲載しています. 建物が山の斜面に沿っているので、廊下天井も一部が斜めになり、そこにトップライト(写真2枚目)が設けられていました. 個人的に驚いたのはトイレ(写真3枚目)で、ご覧のように通り抜けができるようになっています. 手前の開いた扉は男子トイレ用の扉で、ここでは男女トイレをブース壁で隔てていました.
階段付近に斜めに入り口が設けられたこちらは普通教室(写真5枚目)で、今では1学年1教室制となっているため、教室表記も『◯年』だけです. 教室内は入学式間近のシーズンということで荷物はほとんどなくガラガラの状態. 個人的には奥に見える開口のサッシュのデザインが非常にカッコいいです. 1981年の小学校の総生徒数は508人(参考pdf)でしたが、少子化により2014年の生徒数は106人と1/5程度にまで落ち込んでおり、離島の小学校の運営は苦しそうです. 折角のいい校舎なのですがね…




階段を下りていくと、先ほどの体育館の内部が見える窓(写真1・2枚目)を発見. 当日は入学式手前ということもあって式典用の会場になっていました. 校舎内に収めされているだけあって、天井がかなり低く、バレーボールとかすると普通に天井に届きそうです. 最後は校舎の裏山スペース(写真3・4枚目). 1階のクラスルームからテラスを介して直接でられるようで、県道側からは見えない隠れた遊び場という感じがします.
今回参加したツアーの大きなポイントとしては、普段は開放しないこの小学校の内部を見学できることが非常に大きく、小学校の裏話なども聞けて個人的には大満足でした. 子供達が楽しく学べる校舎ってこういうものなのでしょうね. 見ていて楽しいですし、ここから巣立った人たちが胸を張って自慢できる素晴らしい校舎だと思います. それでは今回はここまで〜
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