【瀬戸内国際芸術祭特集】直島建築ツアー - ARCHI'RECORDS(アーキレコーズ)- 建築紹介・建築探訪録        

【瀬戸内国際芸術祭特集】直島建築ツアー

           
an07:瀬戸芸の旗@海の駅なおしま

皆様どうも. 直島や小豆島をはじめとした瀬戸内海に浮かぶ島々を舞台とした3年に一度のアートフェス『瀬戸内国際芸術祭2016』の夏会期の開催も、残すところわずかとなりました. 夏会期は海の日に当たる7月18日から9月4日と一月半にわたって開催され、夏休みの行楽シーズンと被ることから最も賑わいをみせるシーズンとなります.

中でも芸術祭のメインアイランドとなる『直島』は、世界的建築家である安藤忠雄(あんどう ただお)氏が手掛けた「地中美術館」「李禹煥美術館」などがあることから、日本有数の建築アイランドとしても有名です. しかし直島はこの安藤建築だけでなく、島内の学校や役場も有名な建築なのですが、現役の公共施設のため普通に見学することはできません.

そんな中、直島町や福武財団は芸術祭期間中に限り、これらの建築を見学させてくれるツアーを発表しました. その名も『[ 直島建築 + The Naoshima Plan ] 直島建築ツアー』 です. 見学対象は直島の文教施設を手掛けた建築家 石井和紘(いしい かずひろ)氏の建物や、近年完成した三分一博志(さんぶいち ひろし)氏の建物で、参加料金はたったの500円です.

私個人直島には複数回訪れているのですが、これらの石井建築や三分一建築には入ったことがありませんでした. なので今回発表されたこのツアーは、個人的には願ってもない千載一遇のチャンス. というわけで、晴天の4月に直島を訪れてこのツアーに参加してきました. この記事はその直島探訪レポートになります. ちなみにこのツアーは夏会期も実施される(詳細は後述)ので、 興味の湧いた方はぜひ参加してみてください. それではまいりましょう.


◆ 前半エリア:直島文教地区
an08:直島文教地区

町営バス「幼児学園前」バス停から始まる見学ツアー前半のエリアは『直島文教地区』です. 直島町長を36年も勤め上げた三宅親連(みやけ しんれん)氏が提案した『文教地区構想』に則って、島の中心であるこの地域に幼稚園・保育園から中学校までの教育施設が集中的に建てられました.

これらの建物全体の設計に携わったのが石井和紘氏で、石井氏の手がけたこれらの施設は『直島建築』という名で全国的に有名となります. 各校庭を自由に行き来できる幼少中一体の広域計画がなされ、各施設はこの地域一帯の景観をテーマにした外観や空間がつくられていたりと、直島の子供たちが豊かな学校生活を送り、島外の人に誇れるような学校づくりを目指しました.


・直島幼児学園 <保育園・幼稚園>(石井和紘+難波和彦)
まず初めに訪問したのがこちらの施設. 幼稚園と保育園が一体として運営する幼保一元化を全国に先駆けて導入させたもので、地区構想当時から直島町が新しい育児サービスに積極的だったことがわかります. 幼稚園と保育園の間には中庭が配置されており、園舎と裏山、そして手前の道路に囲まれた中庭は、南北を山に挟まれた『峡谷』のような周辺景観をモチーフとさせているようです.
【*個別記事はこちら→「直島幼児学園」
0127:直島幼児学園 保育園正門①
保育園の正門
0127:直島幼児学園 学園の運動場
園舎や裏山に囲まれた中庭
0127:直島幼児学園 幼稚園東側からの眺め②
幼稚園の外観


・直島小学校(石井和紘)
つぎに見学したのは町立の小学校. こちらは文教地区構想で初めて完成した建築であり、石井和紘氏にとっても処女作となった作品です. 真っ白な宇宙船という表現がしっくりくるインパクトのある外観で、『山の斜面』に沿うように建物全体が緩やかな斜面を形成しているのもポイント. ツアーでは、文教地区で唯一内観見学ができる建物です. こういう場所で学べる子供達がすごく羨ましく思うほど素晴らしい空間でした.
【*個別記事はこちら→「直島小学校」
0128:直島小学校 外観全景
小学校の外観
0128:直島小学校 中庭
構内にある中庭
0128:直島小学校 図書室②
最上階の図書室のトップライト
0128:直島小学校 廊下
自然光に照らされた廊下


・直島中学校(石井和紘)
文教地区最後の見学スポットは地区西端に立つ中学校. 建物は「本校舎」と「体育館・武道館」にわかれており、町民スポーツ施設としての利用も兼ねる観点から体育館が先に完成した珍しいケースの中学校です. 周辺地形の『等高線』に沿うように折れ曲がったギザギザのラインや、メタボリズム建築を彷彿とさせるカプセル状の外壁など、注視すると面白い発見が外観だけでもいっぱいあるユニークなものでした.
【*個別記事はこちら→「直島中学校」
0129:直島中学校 中学校外観①
中学校本校舎の外観
0129:直島中学校 後に取り除かれた柱
切り抜かれた本校舎の柱
0129:直島中学校 武道館入口の銅板吹き屋根
武道館入口の青銅屋根
0129:直島中学校 武道館のコロネード
体育館・武道館のピロティ(ポルティコ)


◆ 後半エリア:本村地区
0130:直島町役場 望楼からの眺め

文教地区から徒歩で移動して、ツアー後半の舞台となる本村地区にやってきました. 昔この一帯を統治した旗本である高原氏が築城した『直島城』を中心とする城下町が築かれたこともあり、白漆喰と焼板の美しい街並みが多く残ります. 現在では「家プロジェクト」「ANDO MUSEUM」があるエリアとしても人気です. このツアーでは見学できる3つの建物全てで内観見学ができます.


・直島町役場(石井和紘)
竜宮城にも喩えられる独特な和風の外観をした直島町の役場は、石井氏が手がけた直島建築の中でも代表的な作品です. 屋根は「飛雲閣」をモチーフとしたアシンメトリーな屋根、ハート型や虫籠窓型などの開口がコラージュデザインのように配置された独特の外観から『ポストモダン建築の旗手』とも称されています. このツアーでは3階の「議場」、そして最上展望室となる「町政を考える望楼」が特別に見学できます.
【*個別記事はこちら→「直島町役場」
0130:直島町役場 正面外観全景
正面外観
0130:直島町役場 窓口スペース①
1階の窓口ホール
0130:直島町役場 議場①
3階の「議場」
0130:直島町役場 町政を考える望楼①
屋上展望室となる「町政を考える望楼」


・直島ホール(三分一博志)
2015年に完成した直島町の町民会館です. 設計は「犬島精錬所美術館」を手がけた三分一博志氏です. 風が南北に抜ける大きな風穴が特徴的なヒノキの大屋根、内部も白漆喰で美しく仕上げられたドーム天井が魅力的です. 全体的にヒノキの香りが充満していて、内部にいるだけでも癒されます. ツアーでは芸術祭でも立ち入れない舞台の裏側部分にあたる畳敷きの小ホールと舞台内部も観覧できました.
【*個別記事はこちら→「直島ホール」
0083:直島ホール 北東側外観
ホール外観
0083:直島ホール 池と苔のある南側の庭
桟敷きが設けられた苔庭のある池
0083:直島ホール 内観全景②
ホール内観
0083:直島ホール 南側ホール
特別見学できた南ホール
0083:直島ホール 舞台内部
特別見学できた舞台内部


・またべえ(三分一博志)
最後に案内されたのは三分一氏が手がけた「またべえ」と称された個人住宅. 庭一面の苔は縁側にまでつづき、保水性の高い苔によってクールダウンされた冷たい空気が建物内を通り抜けるというエコロジーな仕掛けが施されています. 実際建物内はヒンヤリとしていて風邪かスーッと抜けていくのを感じました. 障子貼りの天井も美しい. ツアーではお茶と茶菓子が召しあがれる贅沢なものでした.
【*個人住宅のため個別記事はありません】
an09:またべえ 外観
外観と苔庭
an09:またべえ 内観①
苔庭を室内から
an09:またべえ 内観②
室内では茶道を嗜むことも
an09:またべえ 内観③
苔庭とは反対側の縁側
an09:またべえ 召し上がった茶菓子
ツアーで提供された茶菓子

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というわけで、2時間という時間があっという間に感じられた建築ツアーもこれにて終了となります. 安藤氏の建築が目移りしやすい直島建築ですが、その直島を安藤氏以前の時代から支えた石井建築、そして直島の新しい風となるであろう三分一建築という新旧の直島建築を直に見学することができて大満足でした. 見学費も良心的で、お茶会含めてこの料金設定は大丈夫なのかと心配してしまいました.

こちらのツアーは先述した通り、夏会期にも開催されます. 日程は芸術祭期間中の毎週土曜日(ただし7/18・8/20を除く) . 定員は各回10名で、先着順での応募となります. 春会期は13時スタートでしたが、夏会期は9時15分に変更されていますので注意してください. 更に詳しい内容は『直島建築+The Naoshima Plan』公式ページでご確認ください.

安藤建築とは一味違った直島建築の魅力を、あなた自身の目で確かめられる数少ないチャンスです. それでは今回はここまで〜


※ ツアー内で撮影された写真は、ガイドと担当しました直島町役場職員様からの許可を得て掲載しています. 直島町・福武財団の皆様のご厚意に深く感謝申し上げます.
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的野 峻一(MATŌ)

Author:的野 峻一(MATŌ)
『ARCHI'RECORDS(アーキレコーズ)』は関西の建築好きが日本全国にある建築スポットを実際に探訪し、感想を交えながら紹介しています. 詳しい活動内容はエントランスページよりご確認ください.

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◆『近代建築2017年5月号』にて写真提供をさせていただきました. 『近代建築』バックナンバー

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