


それではJR坂出駅前からスタートです. 坂出駅は岡山と高松を結ぶ快速マリンライナーにおいて、高松駅以外で唯一全列車が停車する香川県の駅なので、本州側から来る観光客でもアクセスが非常に容易です. 人工土地は駅前から北に伸びる駅前商店街の通り
(写真2枚目)を250mほど歩いた先に見えてきます.
坂出市営京町団地を正式な名称とするこちらの団地は、当時スラム化しつつあった市街中央部によりよい居住環境を作る『住宅地区改良事業』の一環として1968年に建設されたものです. 60年代の日本といえば高度成長の真っ只中で、ベビーブームによる人口の増大や、戦後からの居住環境を見直した新しい団地・ニュータウンの誕生などによる集合住宅の大きな発展期であり、この団地もそんな時期に誕生した代表的なものです.




外周をぐるっと歩いていきます. 団地エリアの角には案内地図
(写真1枚目)が設置されていますが、決してこれを同一の平面でみてはいけませんよ. 並木道としても整備さえた西側の地上フロア
(写真2・3枚目)は、写真の通り店舗が並んで商店街のアーケードのような感じに整備されています. アーケードの真上には団地のユニットがポツポツと見えるのも人工土地ならでは. よく見るとアーケードの天井は綺麗なヴォールトではなく、上階の梁が少しだけ見えるのも面白いです.
団地の設計を手掛けたのは、戦後のメタボリズム・グループの一員でもあった大高正人氏. このサイトでは
「神奈川県立近代美術館 鎌倉別館」で初紹介しています. 大高氏は前川國男氏の弟子であった経緯から「晴海高層アパート」などの名住宅にも携わっており、当時の集合住宅の潮流を理解していました. その流れの中で考案した人工土地構想では、
市が地権者から「屋上権」を購入して建てるという前代未聞な仕組みで所有権問題を解決し、この空中都市が完成することになったのです. 時代とはいえ、坂出市もよくこれに踏み切りましたね〜.





西のアーケード街を北上して、団地の北西側へやってきました. 商店街の南の壁にはクスリや魚など、商店街の店舗をモチーフとしたカラフルなサイン
(写真2枚目)が刻まれています. こちらの広場には池や銅像が整備されたりしていて広々としているのですが、非常に気になったのが幅の細いこの階段
(写真3枚目). こちらは団地のフロアにもいける階段ですが、とにかく幅が細い上に階段の黒い汚れのせいでかなり暗い雰囲気になっていました.
階段の奥にはガラス張りのスペースがあると思って近づくと、どうやらこちらは市民ホール
(写真4・5枚目)のようです. 商店街だけかと思っていたのですが、公共のホール施設も押し込まれているとは驚きでした. 住宅あり、商業あり、そして公共ホールありと、一昔前の積層都市ってこういう感じだったんですね〜.






商店街は団地の外周だけでなく、真ん中にも南北に貫くように走っているのが興味深いところ. アーチ状の入口
(写真1枚目)から中に入ると、そこは一昔前のレトロさを感じる空間
(写真2枚目)で、ペンダントライトのように降りる照明も白熱電球型ってのがより一層レトロ感があります. シャッター街なのが寂しいですが、当日は瀬戸芸関連のアートイベントがあってか、若い方の往来が目立ちました.
商店街を抜けて団地の東側にでてくると、なにやら地盤の真下がピロティのようになった空間
(写真3枚目)が. 興味本位で進んでいくとそこは駐車場で、スペースの真ん中には木が植えられており、それが穴を通して団地のフロアにまで突き抜けていました
(写真4枚目 中央付近). しかしながら地盤を支える柱のデザインもかなり凝っていて、それが列柱のように奥まで並ぶ姿は圧巻ものです
(写真5枚目).






ピロティを抜けると、その脇には団地のフロアへと昇降できるスロープ
(写真1枚目)が. どうやらこの上には車もいけるようです. 折角なので、このスロープから地盤の上のフロアに入ります. スロープを登ると、目の前には水色の壁面が特徴的な住戸ユニットがポツポツと建つ集合住宅の風景
(写真2枚目)が広がります. 先ほどの商店街や駐車場がこの地盤の真下にあるとは、にわかには信じられません.
居住空間はそれぞれ1〜4階建ての32棟もの住居ユニット
(写真3枚目 ユニットの一例)が分散配置する構成になっています. 人工地盤ということで、さすがに大型のものは作れなかったようです. 大半の住居はユニット内にあるのですが、中には地盤からさらにかさ上げされた地盤の真下に潜り込む住宅
(写真4・5枚目)もありました. 団地内は誰でも入れますが、静かに歩いてても住民の世話する犬にめちゃめちゃ吠えられますので、小心者には少しキツい感じがします.





団地の中央エリアから見ると普通の団地の光景
(写真1枚目)ですが、端の方から撮ると空中都市感
(写真2枚目)があって、このギャップ感が素晴らしく感じてしまいます. 地上にあった市民ホールの真上は、写真3枚目のように段々状にユニットが並んでおり、まるで山の斜面に建つかのような感じがすごくいいです. ただし移動の大半は階段なので、お年寄りには少し厳しい居住環境かもという懸念は拭えませんでした.
近年ではその試みが評価され、DOCOMOMOの100選にも選定されるほどのモダニズム名建築として認知されているこちらの団地ですが、メンテナンスの問題や不動産登記の問題で地盤の管理が宙に浮くなどにより、結局のところ人工地盤構想の実現は全国でここだけになってしまいました. 高度成長で実現した未来都市であるこれを再生しようとする有志団体が今も活動中ということで、今後の動向に期待したいところです. ではでは今回はここまで〜
※ こちらは現役の住宅です. 見学の際は住民のプライバシーを考え、十分な配慮を心がけてください.◆ この記事に関連する建築マップ
・
瀬戸内建築マップ - 岡山・香川の瀬戸内海を中心とした建築マップ
※Googlemapでは人工土地の北側にある「坂出市民ホール」を表示しています
- 関連記事
-
コメント