




文華館へは先述した近鉄学園前駅から南東へ歩いて5分ほど. 駅からの案内板に沿った道を歩くと、高級住宅街というような雰囲気を感じませんが、ひとつ南の小道を歩けば丘の斜面に並び建つ邸宅の街並みがひろがります. ある程度綺麗に整備された道路沿いに見える銀色の看板
(写真2・3枚目)が見えれば、そこが文華館の玄関. 景観も考慮してか大きい案内板を掲げていないため、遠くからだと少し見づらいのが少々難点な気もします.
写真4枚目は正門からアプローチを撮影したものですが、凄いのはゲート奥に広がる鬱蒼とした密林のような前庭. 通常の一眼レンズでは収まりきらない巨木が生い茂ります. 美術館の前庭ってガーデンチックなものが多いですが、もうこれは庭ではなくて立派な森ですね. 文華館は館内ではなく、前庭手前のゲート右側にある窓口で入館料を払う仕組み. ゲートの左手前には、辰野金吾氏がてがけた「奈良ホテル」のラウンジ一部が移築された「文華ホール」があります.




それではチケットを購入して前庭を歩いていきます. 日本有数の古さを誇るため池『蛙股池』の西畔をに建つ文華館の敷地の大半は、この「文華苑」とよばれる庭が占めています. 春に咲くモクレン・シダレザクラや、秋ごろをピークとするサルスベリ・ヒガンバナなど四季折々の花々が楽しめるのがポイント. 見渡す限りの緑が広がるメインアプローチの向こうに佇む風格ある本館の光景
(写真4枚目)は実に見事なものです.






文華苑を越えて辿り着いたこちらが文華館の本館. 水平方向に伸びる垂木付きの屋根、虫籠窓がついた白漆喰と鮮やかな緑色のなまこ壁、日本の伝統家屋の佇まいを想起させる美しさ溢れるファサードに言葉が出ません. なまこ壁というと灰色の平瓦が一般的ですが、ここでは非常に小さい緑タイルを丁寧に並べている
(写真4枚目)のが特徴. 夕方頃に撮影
(写真5・6枚目)すると、太陽が傾くとともに屋根・なまこ壁の陰影に深みがででより一層魅力的にみえます.
近畿日本鉄道の創立50周年を記念したこちらの美術館は、昭和期を代表する建築家 吉田五十八
(よしだ いそや)氏によって設計されました. 日本の伝統建築である数寄屋造りを近代化させた『近代数寄屋建築』の開拓者として知られ、1952年には日本芸術院賞を受賞. 「歌舞伎座(4代目)」や「五島美術館」、数々の寺院建築に携わりながら和の近代建築を多く手掛けました. この大和文華館もDOCOMOMOに追加選定されるなど高い評価を受ける吉田氏の代表作の一つです.
2010年には大林組設計のもとで大規模改修を経てリニューアルされ、美術館としてもこれからも健在のご様子. 写真をご覧になってわかる通り、なまこ壁は一部が空洞になっているのが特徴で、奥は事務室らしき部屋の窓が取り付けられた一部を除いてスチール板で塞がっています. 改修前はここにも窓があったのか、非常に気になっているところです.




ネットでは正面入口の写真が多い文華館ですが、左右にある小道から本館の裏手に行くことができます. 当日左側の小道は蜂が出るということで立ち入り禁止だったため、右側から回り込んだ写真を掲載しています. 文華館はミュージアムや講堂などが入るエントランスに該当する棟と、展示室が入る奥の棟の分棟配置となっており、両棟は虫籠窓と障子の開口が施された廊下
(写真2枚目)で連結しています.
展示室の棟は全面がなまこ壁となり、その周囲にはコンクリート製の縁
(写真3枚目)が巡っています. 縁のデザインも洗練されていますね. 本館の裏手に回り込む際には、下り階段となって1フロア落ち込むため、エントランス棟には様々な長方形の石板を配置した、幾何学の美しい地下フロアのファサード
(写真4枚目)が出現します. 長方形も組み合わせでここまでカッコよくなるんですね.





展示室棟の真下はコンクリートによる柱梁が強調されたピロティ空間
(写真1枚目). 上はなまこ壁という重厚な印象を与えながら、構造体はそれに反するかのように断面を細く見せているように感じます. 杉板型枠の木目模様
(写真2枚目)も美しい. ピロティ中央部はいかにも現代的なスチールルーバー
(写真3枚目)が覆い、奥には僅かながら耐震ブレースが見えます. おそらく耐震改修時に新しくしたものと思われますが、あまり違和感なく良い感じに馴染んでいます.
ピロティを抜けてようやく文華館の裏手へ到着.裏手から見た本館
(写真4枚目)は、垂木や出梁になまこ壁といった和の要素にコンクリートのピロティを組みわせた、和風モダニズムというべき品のある佇まい. 広場には、奥に広がる蛙股池を見るように配置された石のベンチが設置されています. 文華館には池を見るための開口とデッキが設けられ、開口は展示室の休憩スペースと連続していますが、残念ながらデッキは立入禁止です.
文華館館内は残念なことに撮影禁止ですが、展示室中央に配置された「竹の中庭」をぐるっと周回するように観覧する展示室や椅子のデザイン、休憩スペースに施された木組のデザイン、和の内装が徹底された廊下空間など見所満載です. 和の伝統とモダニズムが見事に融合した美術館建築、気になった方はぜひ奈良まで. ではでは今回はここまで〜.
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