2016/10/14




百貨店があるのは名古屋市栄エリアの南西部. 栄市街地を東西に横断する『広小路通』と、南北に走る『呉服町通』の角地にあります. 名古屋駅方面の遠方(写真1枚目)から見ると街路樹や手前にある「明治屋ビル」で全体を見ることはできませんが、屋上にある『栄』の看板は昔ながらの百貨店の雰囲気を感じさせます.
松坂屋、三越、名鉄と並んで『名古屋の4M』と称された丸栄(まるえい)は、江戸初期から続く老舗呉服店『十一屋』と、昭和期にできた『三星』の対等合併によって生まれました. 本館は既に完成していた三星の百貨店店舗を増築する形で完成し、最後の増築工事(第3期)は村野氏の没年である1984年に行われています. Wiki等での作品名が「丸栄本館増築」と呼ばれるのはこの経緯からで、現時点(2016年)までで唯一百貨店として建築学会賞を受賞しています.





こちらは広小路通から見える北側(および東側)のファサード. グリッド状に配されたコンクリートのリブによって、遠目(写真1枚目)からは厳正なモダニズムの雰囲気を感じます. さらに近づいてみると、グリッド中央には薄紫の小口タイルによる垂直の帯、そしてその両脇に縦に長いスモークガラスがはめ込まれており(写真2・3枚目)、その精巧なプロポーションは非常にカッコいいです.
ファサードの東側には竣工時からのものであろう丸栄の看板(写真4枚目)が. これを広小路通の向かい側の写真(写真5枚目)をみると、看板上に曲線で構成されたユニークな彫刻、さらにその上にギザギザの彫刻が確認できます. ファサードの一部に美術家の彫刻を取り付けるのは「そごう大阪店」や「高島屋京都店」でも見られる村野氏の仕掛けのひとつ. ピリッとしたファサードには丁度いいアクセントになっていますが、どの美術家が手掛けたものなのか判りません.




呉服町通に面した西側のファサードは、グリーンの小口タイルに黄色・橙・水色のタイルを組み合わせた巨大壁画のようなデザインに. その大きさと色合いから強烈な存在感を放つこちらの壁画は、一説では日本の伝統的な着物柄をイメージしているといわれています. カラーモザイックの先駆けともいわれるこの試みを、村野氏は後に大阪道頓堀の「ドウトンビル」でも施されています. タイルの色・配置だけでなく目地の色合いまでを巧みに使い分けているのが見事です.





それでは館内へ. フロア内部はかなり小綺麗にされてしまっている状態で、村野氏のデザインに繋がるようなものは確認できません. 百貨店を見るなら階段は必須という個人的な経験則に従って階段スペースに行ってみると、村野氏が手がけたと思われるオリジナルの手摺(写真2・3枚目)が残っていました. やはり村野氏というと階段です. 手摺は木を曲げた触り心地の良いもので、曲線を組み合わせたデザインも見事でした.
北側にある階段の踊り場からは、ファサードから見えたガラスブロックを内側から鑑賞することができます(写真4枚目). ここで気がついたのが、外からは小さいブロックが積まれたように見えたガラスが、実はテープ類を貼り付けた仕掛け(写真5枚目)になっていたこと. ガラスブロックではこういう演出もできるのかと、感心しながらガラスを眺めていました.
私の地元である関西では「そごう大阪店」と「近鉄百貨店阿倍野店(現:あべのハルカス)」が消えたりと、村野氏の商業建築がドンドン失われている状況. この丸栄もなんとか踏ん張ってほしいですが、経営が崖っぷちのためインバウンド(訪日外人客)向けの免税店を誘致したり(参考URL)と、色々厳しい状況です. ご訪問の際は、丸栄の売り上げにも一役買ってあげてください. ではでは今回はここまで〜
- 関連記事
コメント