2016/10/19




スタートは名鉄と愛知環状鉄道の駅が並ぶ豊田市の中心部から. 世界的な自動車メーカーである『トヨタ自動車』の企業城下町としても名高い、愛知県東部最大の都市である豊田市. 市政を敷いた際の名称は『挙母(ころも)市』でしたが、トヨタの自動車産業が拡大するにつれて『豊田市』と改められたという経緯からも、この地におけるトヨタの力が強固なものであることが伺えます. 名古屋市内からは、名鉄と直通運転を結ぶ地下鉄鶴舞線で約1時間ほどです.
駅から美術館までは片道100円のシャトルバスが出ていますが、行きは徒歩でいったためそちらの道中写真も掲載. 歩道橋部のアーチや路面に青色で案内が示されている(写真2枚目)ため、どの道を進めばよいかが一目でわかるようになっています. 途中までは市街地の平坦な道が続きますが、美術館のすぐ東を走る愛知環状鉄道の高架橋を超えたあたりから急な上り坂に(写真3枚目). 鉄道沿いの道からは、美術館がちょこっとだけ見えます(写真4枚目).




15分程歩いて美術館の敷地入口に到着. 左手には立派な櫓風の日本建築(写真1枚目)がみえています. 美術館があるこの敷地は、江戸時代に挙母藩の中心として建てられた『七州城(挙母城)』の城跡地だった場所で、敷地は城跡公園としても整備されています. 美術館が鉄道の高架線よりも高い位置にあるのはこのためで、入口にある「隅櫓」は1977年に再建されたものです.
手前の駐車場の一角にはシャトルバス乗り場(写真3枚目)があり、帰りに利用した際は7分ほどで駅前に到着しました. 道の奥に見えてくる谷口建築(写真4枚目)にワクワクしながらメインアプローチを進んでいきます.






そして美術館の正面広場に到着です. ついにやってきた谷口建築という意気込みでやってきましたが、手前にはテントも用意されるほどの長蛇の列. どうやらこの時期にやっていた特別展目当ての行列らしく、最後尾では待ち時間1時間以上とアナウンスされていました. 人の列が外に溢れているのは何事かと思えますが、館内でも人の列が延々と続くのを見ると、これはこの展覧会の集客力が規格外すぎたと考えるべきだと思います. 休日でしたし、家族連れ多かったですし.
美術館が竣工したのは1995年と、これは谷口氏の建築作品としてはちょうど中盤期の作品. 同年には全面ガラス建築の「葛西臨海公園レストハウス」を、この4年前には「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」を手掛けています. 2014年から1年間ほど老朽化等による耐震工事で休館していましたが、2015年10月に再開館を経て現在に至ります. 淡くも深いグリーンのパネル壁面と、奥に見える真っ白なガラスファサードがとても綺麗です.






正面広場の右側にあるスロープ(写真2枚目)を登って美術館の2階へ進みます. スロープを登ると正面広場からも見えた列柱ならぬ列壁のあるキャノピー(写真3〜6枚目)が建物北側まで連続し、その手前には広大な池が整備された親水空間になっています. 等間隔に並んだ列壁や一部壁面にはモス・グリーンの米国産スレートをく綺麗に貼り込んでいます. 垂直と水平だけで構成される、シンプルながらも美しいデザインに脱帽です.








こちらは主に彫刻テラスで撮影した写真. 展示室が入る本館ボリューム(写真1〜3枚目)は乳白色の美しいガラスファサード. グリッド状に配されたマリオンによって、全体にリズミカルな表情が生み出されています. 彫刻テラスと面する本館部分にはレストランが配置され、さらにテラスの東側からは豊田の市街地を眺められる展望スポットになっています(写真4枚目). 高台の城跡地を最大限に活用した見事な仕掛けです.
テラスに展示される三原色の小さな壁と鏡のアート作品は、フランスの芸術家であるダニエル・ビュランの作品(写真4〜5枚目). テラスの床面にも外国産のスレートが敷かれ、コンと叩くとカーンカーンといい感じに響くのがいい. この色合いのスレートをどっかで見た気がしましたが、以前訪問した「東山魁夷せとうち美術館」のスレートと同様のもののようです. テラスの北側には、漆芸家である高橋節朗氏の作品が展示された別館「高橋節朗館」(写真8枚目)もあります.





テラスから池の対岸へすすみます. 米国のランドスケープデザイナーであるピーター・ウォーカー氏によってデザインされた庭には、様々な野外彫刻が展示されています(写真1〜2枚目). そして写真3枚目は池の対岸から撮影した美術館の眺め. 手前には広大な池、すぐ奥にはスレートの列壁が並ぶキャノピー、その奥に佇む乳白色ガラスの本館と、シンプルながらも気品に満ちた現代モダニズム建築の傑作がここにあります. 池と触れ合う人々の光景がありありと映るのもいいですね.





それでは館内へ. 初めは展覧会の行列に並ばなければ見られないのかと半ば途方に暮れていましたが、スタッフに聞いたところこの展覧会は1階部分のみで、上の階では別の展覧会をやっているということを聞いたので、2階のラウンジ(写真2枚目)から入館していきます. ラウンジには欧州メーカーの家具が備え付けられていますが、このスペースから見下ろした階段手摺(写真3枚目)のデザインが非常にカッコいいものでした.
ラウンジから奥に入ると、2階から3階までが吹き抜けとなった「ギャラリー」(写真4〜5枚目)に到着. この美術館館内のメインとなるスペースです. こちらは撮影OKということだったので掲載しています. 225名の思想家・哲学者の名前が巨大壁面に記されたジョセフ・コスースの『分類学(応用) No.3』や電光掲示板に文章が流れるシェニー・ホルツァーのインスタレーションなど、空間と現代美術が組み合わさった象徴的な空間です.




もう少しギャラリー内を細かく見学. 壁画作品の反対側に展開されたガラスファサード(写真1〜2枚目)は、乳白色の高透過ガラスをDPG(点支持)で支えたものを使用. このガラス面の向こう側には外壁のガラスファサードが連続するため、外から差し込む光は乳白色のガラスを通してギャラリー内を照らし. 夜になれば館内の照明光がガラスを通すことで、外観が光るという幻想的な光の仕掛けをみることができます.
企画展示室の1時間待ちは時間的に無理があったので、今回は2階と3階の展示室のみの入場. 個人的に素晴らしかったのが各展示室にある乳白色ガラスのトップライトやハイサイドライトによる光の演出. 白を基調とした展示室内をなるべく阻害しないよう、ガラスの支持構造の影を目立たないようにディティールが考慮されています. 一部の展示室は天井が屋根状になっているユニークな部屋もあるので、ここから先はぜひご自身の目でお確かめください.
谷口氏の美術館シリーズもそれなりに見学してきました. 外との繋がりが地上レベルで完結する作品が多いのですが、この美術館においてはレベル差を活かした演出が、野外にまでテクニカルに演出されているのが印象的でした. これはこの場所が城跡の高台という歴史的背景に起因したものかとも考えましたが、この部分の考察はあくまで個人的な解釈の範囲で止めようと思います. 洗練を極めた美しいモダニズム美術館へ、あなたも是非一度. ではでは今回はここまで〜
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