




全国屈指のお茶どころとして知られる掛川は、二の丸御殿が現存する「掛川城」の城下町として栄えました. 土佐藩初代藩主としても知られる山内一豊が、土佐に転封する前に住んでいたことから、高知県との交友関係があるそうです. 市庁舎があるのは、東海道新幹線の停車駅であるJR掛川駅から直線距離にして西に1.5kmほどと少し距離があります. 歩くのがしんどい場合は掛川駅から天竜浜名湖鉄道に乗り換え、一駅先の掛川市役所前駅
(写真1枚目)で下車しましょう.
駅を出てすぐの場所
(写真2枚目)には何もなく、西側に広大な緑が広がる丘のような場所が市庁舎の敷地. この場所からでは木々に隠れて建物が全く見えませんが、駅前からのびる上り坂を登っていくと、本庁舎の目の前にたどり着くことができます. 目の前に建つ円筒状のボリューム
(写真4枚目)はガラスブロックに覆われており、朝の日差しに呼応するようにキラキラと輝いているのが美しいです.





到着したのが庁舎開館時間の少し前だったため、まずは一通り外観をグルッと歩いてみます. ガラスブロックの円筒が見えているこちらは北側の外観. 二対一となった鉄骨マリオンによる十字格子の組み合わせ
(写真2・3枚目)がとてもカッコよく、青々しい掛川の空がガラスに映り込んでいるのが綺麗です. 庁舎手前には構造デザインの見事なキャノピー
(写真4枚目)や、片持ちでグーンとのびる玄関庇
(写真5枚目)など、見るだけでもユニークなデザインも確認できました.






そしてこちらが南側からの外観の眺め. 西側が小高い山の斜面にスボッと突っ込んだように建っているのがわかります
(写真1・2枚目). その西側の屋上付近には貝の形をしたメタリックな屋根は、庁舎最上階にある「議場」の屋根となっている部分です. 東側に取り付けられた階段室
(写真5枚目)は、よく見ると階段がわずかに透けるようにデザインされているのがとても近未来的でした. 横方向にリブを効かせた杉板型枠のコンクリート壁
(写真6枚目)もいい味をだしていました.
広大な緑の丘陵地に建設されたこちらの市庁舎は、戦後の日建設計を牽引した建築家 林昌二
(はやし しょうじ)氏の手によって1996年に完成しました. 敷地のすぐ南を新幹線が通るというロケーションを活かし、掛川のランドマークとなるような、周囲の緑との共生を意識した市庁舎としてデザインしたそうです. 車窓からの眺めがどうなっているのか、個人的には気になりますね. ちなみに、この市庁舎が完成する前の「旧掛川市庁舎(1955年)」も林氏の設計です.






開庁時間も過ぎたところで館内へ入っていきます. 受付に確認したら撮影OKで、当時の竣工写真が載った資料も見せてくれました. この庁舎のメインとなるのが、建物の地上階から屋上までの6フロア分が吹抜けとなった、高さ30m以上もの巨大アトリウム. 2階から4階までに段々状に配置された「生涯学習テラス」
(写真3枚目)は、掛川の茶畑をイメージしてデザインされているそうです. ファサードでも見られた段々状の壁も、この内部空間を反映したものです.
オフィス機能となる業務スペースをテラスの真下に隠すことで、市民が利用するパブリックな光景が段々状に連続して見えるのがとてもいい感じです. この大胆で開放的アトリウムのせいか、実際にそこにいるとこれが市庁舎とはとても思えない. むしろ音楽ホールのような空間に思え、市庁舎というお堅いイメージを見事に取り払っているように感じます.





アトリウムや段々のテラスに目がいってしまいがちですが、個人的に注目して撮っていたのが両脇のガラスファサードとその廊下. H型鋼で二重格子状に組み上がったそのファサード
(写真2枚目)は、内部から見ても非常にカッコいい. こちらは内部に廊下が挟み込まれている
(写真4枚目)ため、その構造がより立体的に演出されているのもポイントです. 立ち入りは制限されていないため、高い階であれば奥手に山々が広がる素晴らしい掛川の景色を堪能できます.
今回はここらへんで. 庁舎という半分民間・半分事務所のような施設を、このように空間的・雰囲気的に解放感をデザインするというのは個人的に素晴らしく感じました. 後で読んだ新建築での林氏の記事では『オフィスビルとは別の役割を果たしてこそ「シティホール(市庁舎)」に値する建築になる』と語っているのが印象的でした. 開館からすでに20年ですが、今後も掛川の市民の場&ランドマークとして親しまれていくことを願っています. ではでは今回はここまで〜
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