


写真1枚目は難波橋から撮影した秋の中之島の様子で、中央の赤いカラーリングの建物が公会堂です. 北を堂島川、南を土佐堀川に挟まれた中洲である中之島は、「大阪府立中之島図書館」や「日本銀行大阪支店」・「大阪市庁舎」が東西に長く立ち並ぶ大阪の中心部. 江戸時代には大阪湾から川を上って中心部に入れる立地性から約40
(元禄16年時点)もの各藩の蔵屋敷が密集して建ち、全国の特産物が集積する『天下の台所・大阪』の中枢を担いました.
中央に4本のコンポジット(複合)式ジャイアントオーダーを設け、上に巨大な半円アーチとステンドグラスが特徴的です. 繊細な装飾の中に時たま見えるセセッション風の丸窓は船舶丸窓のようで、水都として繁栄した大阪らしい意匠に感じます. 公会堂は『北浜の風雲児』として名を馳せた株式仲買人・岩本栄之助
(いわもと えいのすけ)氏の寄付により建てられましたが、岩本氏は第一次世界大戦景気の相場で大損失を被り、竣工の2年前に自殺という悲しい最期を遂げています.





こちらでは南側からグルッと回り込んで撮影した外観の写真を. 公会堂は地上3階地下1階の鉄骨煉瓦造で、1999年より約3年かけて保存再生・免震化等のリニューアル工事を実施.『我が国の煉瓦を主体とした建築の到達点をかざる建築のひとつ(文化遺産オンラインより)』として、2002年に重要文化財に指定されました. 赤煉瓦のファサードが目立ちますが、掘り下がった地下部分
(写真3枚目)は窓にキーストーンが付いたルスティカ仕上げになっています.
公会堂は懸賞金つき設計コンペにより岡田信一郎
(おかだ しんいちろう)氏の案が一等案となり、それに基づいて実施設計を辰野金吾氏と片岡安氏(辰野片岡事務所)が担当しました. 岡田氏にとって辰野氏は恩師にあたる存在で、1912年に竣工した「日本銀行小樽支店(現:金融資料館)」にて共同設計をする等の深い繋がりがあります. なので稀に聞く『辰野金吾設計』は些か語弊があり、岡田氏の原案に辰野氏がアレンジを加えたという感じで、その結果ネオ・ルネッサンス様式の見事な公会堂が完成したわけです. 当初は私も勘違いしていました.







公会堂は基本的に貸ホールとして運営されているため、大集会室等のホール空間を自由に見学することはできません(地下1階の展示室・レストラン等は可能). 私も一度も集会室等の中を拝見したことはなかったのですが、2017年度の『生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪』のプログラムとして、集会室含めた公会堂の内部を特別公開するということで、ようやく内部を見学する機会に恵まれました. 夜の来訪だったため、ライトアップされた外観も美しいです.
公会堂正面の左端の玄関扉
(写真4枚目)からいざ入場. 扉を抜けてすぐに見えたのは、公会堂のロビー空間
(写真5枚目以降)です. 真っ白な壁や回り縁・開口などの至る所に施された彫刻が素晴らしい. アーチ窓の両脇にはライオンの彫刻
(写真7枚目)もあります. 改修前は大集会室への扉の手前に数段ほど階段があったようですが、改修後は階段を取り払っています. そのため開口(扉枠)は元のよりも縦に長くなっているようです. バリアフリーを意識した改修でしょう.








ロビーから奥へ続く扉を抜けると、この公会堂の中心的な空間である2フロア吹き抜けの「大集会室(ホール)」に到着です. 14本の円柱に囲まれた長方形平面内に並ぶ最大810席の1階客席. 2階にも円柱の外側に351席の客席が備わっています. 改修によって復元された折り上げ天井やシャンデリア
(写真2枚目)、そして額縁舞台(プロセニアムアーチ)や柱間の壁
(写真3枚目 中央)に施された豪華絢爛な金装飾、どれをとっても素晴らしい. 見学できたことに感謝です.
舞台の額縁上にある能面のような装飾
(写真6枚目)は、舞楽『蘭陵王』で使用される仮面や装飾をデザインしたもの. 円柱
(写真7枚目)は一番下に『黒更紗(くろさらさ)』、中段の横帯に『美濃霞(みのかすみ)』という国産大理石を使用し、上の白い部分は石膏に顔料を混ぜた『擬大理石』となっています. 実際触ってみると表面温度が全然違い、本物の方がヒヤッとしました. 椅子
(写真8枚目)に座ると座面高が低く、案内の方曰く「当時の人の寸法感かも」とのことでした.







次は大集会室と並んで特別公開された3階へ. 手摺にアール・ヌーヴォー調の曲線デザインが施された螺旋階段
(写真1・2枚目)を上っていきます. 館内西側にある「小集会室」は木彫刻が至る所に施されたシックで落ち着きのある空間. 使用されている木は楢(ナラ)材で、壁面は全て年輪が平行に出るよう製材されています. 当初は小食堂として利用されたそうですが、普通に豪華なので私は落ち着いて食べられる気がしません.
窓を覗いた先には
「大阪府立中之島図書館」の増築棟. 窓の上の折り上げ部分には綺麗なフルーツ柄のステンドグラス
(写真5枚目)がはめ込まれていました. 部屋の奥に創建当初の昇降機
(写真7枚目)が保存されているということでこちらも拝見. 竣工時から運用されていた米国製エレベーターはここと反対側との2機があったようで、うち1機は新造のものへ、もう1機は修復・保存展示されたようです. 保存ですが1世紀前のエレベーターの実物を見られるのは希少ですね.







実はこの日が公会堂開館100周年記念日ということで、3階中央部の「中集会室」ではシンポジウムが行われていました. もう一つの公開部屋は中集会室を挟んで反対側にあるため、一旦1階へ降りて反対側の階段を上って移動することに. 先程の階段はアスファルトで仕上げた簡素な階段でしたが、ロビー近くに位置する階段は豪華な大理石仕上げ
(写真1・2枚目)でした. 恐らく来客用に意匠を豪華にしたものとの解説をいただきました.
階段を上り、もう一つの公開部屋である「特別室」に到着です. 正面外観の特徴であるアーチとステンドグラスの内側に位置するのがこの部屋. 当時は貴賓室で、カーペット敷きで応接用の家具も備わっていたとか. ステンドグラス
(写真3・4枚目)は両脇に鳳凰、円形の四隅に大阪市章である『みおつくし』の意匠が見られ、これらは5162枚ものガラス片で構成されているとのこと. まさに至高の芸術品です.
特別室もう一つのポイントが日本神話をモチーフとした天井画や壁画
(写真5・6枚目)です. 漆喰の面に油彩で描かれた絵画は、当時の日本洋画壇の重鎮・松岡壽
(まつおか ひさし)氏の作品. 中央に描かれた『天地開闢(かいびゃく)』のに、商工都市として躍進する大阪にちなんで商神・素戔嗚尊(すさのおのみこと)や工神・太玉命(ふとだまのみこと)が描かれています. 最後はステンドグラスから外を撮影
(写真7枚目). ここから外を眺める機会に恵まれたことに感謝です.
地下フロアもあったのですが、今回は特別公開された部屋に絞って内部を紹介しました. 遅くなりましたが、今回のブログ掲載は事前に館内スタッフの方より掲載OKを確認しています. 今まで謎だった内部の様子や意匠がはっきりとわかり、公会堂がいかに素晴らしい建物なのかをより深く理解できました. このような特別公開を催していただき、ありがとうございました. 興味のある方は、次回の特別公開のチャンスを逃さないようにしましょう. では今回はここまで.
2017.12.1. 全写真差し替え&全文章再筆(ほぼ新記事)
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