大阪ガスビルディング - ARCHI'RECORDS(アーキレコーズ)- 建築紹介・建築探訪録        

大阪ガスビルディング

           
0192:大阪ガスビル メイン

0192 - 大阪ガスビルディング
竣工:1933年(南館)/ 1966年(北館)
設計:安井武雄(南館)/ 安井建築設計事務所(北館)
住所:大阪府大阪市中央区平野町4-1-2
選定:DOCOMOMOセレクション(100選:No.32)

皆様どうも. 今回ご紹介する大阪御堂筋の建築は、地下鉄淀屋橋駅と本町駅のちょうど中間に建つ、御堂筋に現存する最古のオフィスビルである大阪ガス(瓦斯)ビルディングです. 当時は野村財閥の中核企業にあった『大阪瓦斯』の本社屋として計画され、野村と深い繋がりのあった安井武雄氏の手によって完成. 現在ではDOCOMOMO100選にも選ばれる名モダニズム建築を探訪してきました.
0192:大阪ガスビル 御堂筋南側より

0192:大阪ガスビル 南側交差点から

0192:大阪ガスビル 特徴的なアール①

0192:大阪ガスビル 特徴的なアール②

0192:大阪ガスビル 南側の交差点よりファサードを見る

写真では御堂筋の南側交差点から撮影したものを掲載しています. 銀杏並木が黄色く色づき始めの御堂筋に向かって、人肌並みの温かみを感じる乳白色に彩られた大阪ガスの本社ビルは、その見た目も非常に独特. 何層にも重ねて水平力が強調された黒い庇、整然と並ぶ大窓、そして交差点に向かって大きなアールを描くコーナーと見どころ満載. 現代のオヒィスビルと肩を並べるのに十分なほどの見事なデザインで、初見ではこれが戦前のビルだとは到底思えませんでした.

東京・東邦・西武と並んで国内四大ガス会社のひとつに数えられる『大阪瓦斯(ガス)』は、財閥解体以前は野村財閥の傍系中核企業. 『ガスビル』の愛称で市民に親しまれる本社ビルは、地下鉄御堂筋線の開業と同年である1933年に完成. 道路拡張と地下鉄開通の時代から現在に至るまで、文字どおり御堂筋とともに歴史を歩んできた数少ない建物です.

設計者である安井武雄氏は、このサイトで先出しとなった「高麗橋野村ビルディング」でも述べた通り、野村財閥創業者である野村徳七氏の支援のもとで数々の野村関連施設の設計を担当. 当時は野村の関連会社だったガスビルも、この野村との縁によって依頼されたものと考えられます. ガスビルは先程の高麗橋ビルと、処女作である「大阪倶楽部」と並ぶ大阪の三大安井建築の最終作にして最高傑作との呼び名も高い、戦前日本を代表する名モダニズムビル建築です.
0192:大阪ガスビル 御堂筋の向かい側から①

0192:大阪ガスビル 御堂筋の向かい側から③

0192:大阪ガスビル 御堂筋の向かい側から②

0192:大阪ガスビル 北側交差点より

こちらは主に御堂筋を挟んで反対側から撮影した外観の様子を数枚ほど. 銀杏並木の緑の奥でやんわりと主張するタイルの色合いもナイス. この乳白色モザイクタイルは2005年に全面的にリニューアルされたそうで、実施前は落下防止を考えて別素材を使用する方針もあったそうですが、大阪ガスの強い要望で当時のタイルが再現されました. 先程から上階の白ファサードばかりに注目していますが、1〜2階部分の外装(写真3枚目)には黒御影石が使用されており、黒のドッシリとした基底に白のファサードというモノクロの対比が演出されているのもポイントです.

ビルの南北で、窓の仕様が変わるのにも注目. 南側は大窓が整然と並ぶものだったのに対し、北側は小窓が6つ連続した並びを形成しています. 実はこのガスビル、南側は安井氏による当初からの建物(南棟)で、北側は佐野正一氏率いる安井建築設計事務所によって1966年に完成した増築部(北棟)です. つまり現在のビルは、この南棟と北棟という2つの建物を一体化させた姿というわけです. 両側の窓はそれを明確に表す特徴ですが、タイル外装や庇のデザインは安井デザインを忠実に再現させているため、ビルはこの姿で初めから存在していたかのような一体感を感じさせるものに仕上がっています.
0192:大阪ガスビル 地上空間の様子①

0192:大阪ガスビル 地上空間の様子②

0192:大阪ガスビル 地上部のポルティコ

0192:大阪ガスビル 地上空間の様子③

0192:大阪ガスビル 地上からファサードを見上げる

0192:大阪ガスビル 看板類

では手前の歩道側から色々と気になったものを. 黒御影石が用いられた1〜2階の基底部分ですが、安井氏が手掛けた南棟の2階部分にはコーナー部にまで見事に展開された水平連続窓(写真1・2枚目)を確認できます. ドイツから輸入した割付の細かいこの横長サッシは、個人的ながらヴァルター・グロピウスの「バウハウス校舎」のガラスファサードを連想させる素晴らしいものに感じました.

さらに建物東側と南側の一部には、1階外壁ラインを内側に引っ込めることで形成されたコロネード(柱廊)空間(写真3・4枚目)が整備されています. 御堂筋を歩く多くの人々を緩やかにかつ気軽に引き込むように創られた空間はとても素晴らしく、本社ビルというお堅いビルのイメージを全く感じさせません. 御堂筋を歩く市民に、そして御堂筋という都市空間に開かれたビルという雰囲気は、現代の都市型オフィスビルのあり方に通じるものがあります.
0192:大阪ガスビル 南側外観①

0192:大阪ガスビル 南側外観②

0192:大阪ガスビル 南側外観③

0192:大阪ガスビル 南側外観④

0192:大阪ガスビル 南側外観⑤

ここからはビル外周をグルッとみていきます. 現在は建物に綺麗に日が差す南側外観ですが、ビル南側で建設中の新ビルが出来るまでの光景となります. ファサード(写真2枚目)をよく見ると、各窓の間を垂直に伸びるように、丸みのある細い付け柱(ピラスター)が設けられているのがわかります. 一部の書籍ではこの細い柱が庇を通って連続することで、庇の軽やかさが強調されているとのこと.

一部には丸みのあるユニークな形をした張り出しスペース(写真3枚目) がある南側ですが、南西側のコーナーまでくると綺麗な半円のデザインをした大きな出っ張り床(写真4・5枚目)を見つけます. 手すりがあるためバルコニーのようですが、そこに通じる入口らしき扉はありませんでした. この張り出し床は、竣工当時この南館にあった「講演場」から火災時に逃げられるように造られた避難用バルコニーの名残で、以前はこのバルコニーの上部から非常階段が降りてきていたようです. 避難用の部分もシンプルに美しく魅せるとは見事です.
0192:大阪ガスビル 西側外観①

0192:大阪ガスビル 西側外観②

0192:大阪ガスビル 西側のガラスブロック

0192:大阪ガスビル 北側の地上部の様子

0192:大阪ガスビル 北側入口に設けられたガス灯

引き続き建物外周をグルッとまわっています. 御堂筋の反対側になる西側外観(写真1・2枚目)は、南棟と北棟の違いがよく表れているポイント. 増築部である北棟は各階に庇があるのに対し、南棟は上の階にしかありません. 当時南棟には2〜4階が吹き抜けた、600人ほどの人々を収容できる「講演場」という音楽ホールがありました. 現在はどうなっているのかさっぱりですが、縦長の窓が連続するに、この位置にホールが存在したと思われます.

西側と東側の地上部はコロネードがない代わりに、一部の開口がガラスブロック(写真3・4枚目)になっています. 一説では、それまで地下フロアの明かり取りとして使用されていたガラスブロックを本格的に窓に使用したのが安井武雄氏という話も. 真相は定かではありませんが、このガラスブロック開口も当時としては非常に珍しかったことでしょう. 北入口の脇には、ガス会社よろしくガス灯(写真5枚目)が設置されていました.

今回は外観までの紹介となります. イケフェスのツアー以外でビル内を見学するのは難しいですが、最上階にある『ガスビル食堂』はレストランとして営業しています. 2001年に大きくリニューアルされてはいますが、シックな雰囲気は極力残されているらしく、コーナー部分で綺麗に連続するガラス窓からみる御堂筋の街並みは格別だそうです. 御堂筋のランドマークとして建ち続ける名モダニズム建築へあなたもぜひ、では今回はここまで〜


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