2016/11/28


それではまず正面外観から. 1枚目は淀屋橋より、2枚目は土佐堀通より撮影したものです. ビルの奥側では「中之島フェスティバルタワー」の東館(写真1枚目 右側)が完成間近など、中之島西部のビルラッシュが続いています. そんな土佐堀川のリバーサイドの一角で、黄土色のファサードを輝かせているのがこちらのオフィスビル. この一帯は通称『住友村』と呼ばれ、東隣にある「住友ビル本館」(写真2枚目 手前)などを含めて数多くの住友グループの関連企業が入居しています.





銀行の見た目は黄土色の石壁という重厚な表面に、奥行きの深い無装飾の開口が美しく並ぶ. 例えるなら石の要塞のような、荘厳さと整然さが際立っています. 中央に設けられた玄関は、銀行建築よろしくイオニア式オーダーが2本並んだ古典主義のものですが、全体の規模から比べると小さいものです. 個人的には、普段は黄緑色の三井住友銀行のコーポレートマークが黄土色(写真5枚目)になっている部分に、この建築に対する思い入れを感じさせられました.
住友ビルの計画は、1895年の住友本店第一回重役会議(尾道会議)において『建築工事は数年を期し、充分堅固、百年の計を為すこと』という決議がなされ、その設計のためのグループとして設立されたのが『住友本店臨時建築部』でした. これは即ち、本店ビルを設計するために編成された特別チームということで、住友がいかにビル建設に気合を入れていたかが伺えます. しかし大戦後の経済状況により先送りになり、本格的な建設の見通しがたつのは1920年のこと. この頃には臨時建設部も常置組織となり『住友合資会社工作部』と組織名を変えています.
1920年代の当時はアール・ヌーヴォーやセセッションなどの過渡期にあたる時代でしたが、当時の銀行建築はまだまだ古典主義の建物が一般的でした. そんな最中に完成させたこの銀行ビルは、まさにモダニズムの萌芽と称するに相応しいもの. ヨーロッパの歴史主義とこれから台頭するモダニズムの要素を同時に体現させた建築として、DOCOMOMO20選に選定されるなどの高い評価を受けた、近代モダニズムの代表作として名高い建築です.




こちらは阪神高速の環状線が通る西側の外観です. ファサードは南側を除く三方が、シンプルな開口が5段に並び、中央をイオニアオーダーの玄関で設えたスタイルで統一されています. 最上階の一部には避難用かと思われるアーチ壁のバルコニー(写真3枚目)が確認できましたが、あそこから景色を眺めるのは、ある程度度胸が据わっていないと無理そうです. ちなみに当初は7階建てでの計画でしたが、関東大震災の惨状から5階建てに変更されてたそうです.
ビルの全体設計を担当したのは「大阪府立中之島図書館」の増築部を手掛けた日高胖氏で、ファサード部などを長谷部鋭吉氏や竹腰健造氏(後の長谷部竹腰建築事務所)が担当しています. 肺炎で若くして逝去することがなければ、野口孫市氏もここに名を連ねていたことでしょう. 大きいポイントとしては、この建築を工作部単独で手掛けたこと. つまりは外国人建築家を登用せずに、日本人単独でこの欧風古典主義建築の習熟を成したことが語られています.




こちらは土佐堀通の裏手となる南側のファサードです. 窓が5段並んだ三方の外観とは異なり、こちらは垂直方向にスッと伸びるアーチが連続し、上部にメダリオンが並ぶ西洋様式の色合いが強い佇まいになっています. ここだけファサードが異なるということは何か特別な意味合いがあったように思われますが、残念ながらこの部分に関しては不明です.
ここで黄土色の美しい石の素材(写真4枚目)についても述べておくと、使用されているのは兵庫県高砂市で採掘された『龍山石』です. 同じ石材を使用した建物として「芝川ビル」がありますが、使用している量が圧倒的に膨大で、この量だと相当なお金がかかります. そこで実際は龍山石とイタリア産トラバーチンを砕いて混合・成形した濃淡の違う3種類の擬石ブロックを用意し、建物の外壁四面にまばらに振り分けて作り上げているそうです. 住友本店の権威を象徴するこの石の質感は、工面しながらもビルの品位を落とさせない建築家たちの技の賜物です.




ここからは2016年のイケフェス大阪の様子を. 玄関扉は柱の柱頭にも装飾が施された豪勢なもので、その奥にはシャンデリアが続くロビー空間が見えます(写真1枚目). 写真2・3枚目はそこから天井部分を撮影したものです、当初は入口と土佐堀通は平行しているとずっと思っていたのですが、天井は台形状になっていることから若干ズレてるようです. 入口脇には妖怪かと思う鳥のようなガーゴイル(写真4枚目)がありました.
特別公開された内部も見事で、共用応接ロビーの天井には直線と円の幾何学が美しい模様のステンドグラス. 業務スペースとなる大ホールは、コリント式オーダーの柱が31本(1番奥の列だけ9本の奇数)も並ぶ格式高い銀行空間でした. 一時期は老朽化ということで建て替えの危機にあった当ビルですが、歴史性を尊重して保存・大規模改修を選択した銀行側には感謝の意を述べたいと思います. 探訪をしてから感じたことですが、これを潰すのは色々な意味で勿体ないと思います. 今後も大阪のウォーターフロントの一つの光景としてあり続けて欲しいです.
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