ダイビル本館(旧ダイビル) - ARCHI'RECORDS(アーキレコーズ)- 建築紹介・建築探訪録        

ダイビル本館(旧ダイビル)

           
0196:ダイビル本館 メイン

0196 - ダイビル本館(旧ダイビル)
竣工:2013年(ダイビル本館)/ 1925年(旧ダイビル)
設計:日建設計(ダイビル本館)/ 渡辺節(旧ダイビル)
住所:大阪府大阪市北区中之島3-6-32

皆様どうも. 11月よりイケフェス2016の関連特集として進めてきた大阪の生きた建築も、ついに最後の紹介エリアとなる北区中之島へと入っていきます. 現在は文化・芸術拠点として名を馳せる中之島ですが、水運が物流の要だった江戸期においては40ヶ所以上に及ぶ諸藩の蔵屋敷が設置されていました. 蔵屋敷は今でいうところの特産物販売所のような施設で、各屋敷ごとに各藩の特産物・財が集積したことで、中之島は天下の台所・大坂の中枢として栄華を極めました.

そんな物流拠点としても栄えた歴史をもつ中之島の生きた建築一軒目では、2013年に完成した高層ビル ダイビル本館をご紹介します. ビルの完成は2013年と近年のものですが、低層部は建て替え前にこの場所に建っていた近代建築 旧ダイビルのファサードを復元させているのが特徴. 90年という歴史を刻む本物の素材を継承し、中之島界隈に新たな活気を呼び込むこのビルを今回はピックアップです.
0196:ダイビル本館 地下鉄出口より復元部をみる

0196:ダイビル本館 旧ビル部分の復元ファサード

0196:ダイビル本館 高層部を見上げる

0196:ダイビル本館 高層部のガラスファサード

写真は最寄駅である京阪渡辺橋駅出口を出て、堂島川沿いの歩道より撮影したものです. ビルの北側をはしる中之島通に向かって大きく展開された褐色スクラッチ煉瓦の重厚なファサード. 2枚窓の大きな開口が整然と並ぶ様子(写真2枚目)はとても美しいです. 上を見上げればガラスファサードの高層棟(写真3・4枚目)が見えますが、低層部の旧ビルの外壁ラインからかなりバックしているため、高層棟が旧ビルよりも奥の場所に建っているかのような錯覚を受けます.

低層部に復元されている旧ビルに関して説明しますと. このビルは海運業の大手である商船三井(旧:大阪商船)を中心に設立されたデベロッパー企業『大阪ビルヂング』の所有するオフィスビル第一号として1925年に建てられたものです. 建物の名称となっている『ダイビル』は設立当時の略称を1992年に社名化したもの. 大阪と東京の2都市に20棟以上ものビルが建設され、その大半のビルに『〇〇ダイビル』という名が付けられています.

旧ビルの設計には「綿業会館」を手掛けた渡辺節氏が設計監督に、当時渡辺事務所に在籍していた村野藤吾氏が製図主任に、更にタワー六兄弟を手掛けたことでも知られる構造家・内藤多仲氏が構造に携わるという、名前を並べただけでも迎え撃つところ敵なしの最強布陣によって完成させた、まさに士魂の一作というべき名建築です. ちなみに村野氏はこの縁もあってか、後に八重洲・麹町・内幸町のダイビル施設の設計にも関わっています.
0196:ダイビル本館 地上より①

0196:ダイビル本館 地上より②

0196:ダイビル本館 地上より③

0196:ダイビル本館 庇より上部分の装飾①

0196:ダイビル本館 庇より上部分の装飾②

0196:ダイビル本館 庇より上部分の装飾③

0196:ダイビル本館 アール壁部分の装飾

こちらでは中之島通から地上階部分の彫刻を撮影したものを掲載しています. 近年この手の高層ビルは、ファサードを再現したものを低層部の壁に貼り付ける『腰巻ビル』が主流化していますが、ここでは旧ビルが建て替え前の雰囲気のまま残り続けているような精度の高い復元を実現させています. 今後はその部分に焦点を当てながら解説をしていきます.

1階部分で注目すべきポイントは、柱や玄関アーチに飾られた見事な石彫刻の数々. 全体的なファサードはシンプルモダンですが、人目につく1階部分においてはロマネスク様式の絢爛な装飾を散りばめることで、建物の格の高さを強調しています. 玄関上のアーチ部中央(写真4枚目)に掲げられているのは彫刻家・大国貞蔵氏の力作『鷹と少女の像』. 意外なものとしては龍と魚が組み合わさった東洋的な妖怪装飾があったりと、バラエティ豊かな装飾を探すのが楽しくなってしまいます.

旧ビルの写真を見てもらえればわかるのですが、建て替え前は戦時中の迷彩塗装の名残から少々黒ずんだ色合いでした. 経年による石材の劣化も考慮して、ビルから取り出す際は後ろのRC躯体とセットで切断して搬送. その後は黒ずんだ表面は綺麗に洗浄され、劣化の激しいパーツは新しく作り直しています. オリジナルの表面の色と大きな差が出ないよう炭やバーナーで試行錯誤したそうで、遠くからではオリジナルと見分けがつかないほど見事なものに仕上がっています.
0196:ダイビル本館 北西より低層部全景

0196:ダイビル本館 北西側歩道橋より

0196:ダイビル本館 軒庇のテラコッタ

0196:ダイビル本館 西側より

0196:ダイビル本館 スクラッチ煉瓦のファサード

今度はファサードを西方向から見ていきます. 建て替えなので現在は鉄骨造になっていますが、建物の特徴であった北西角のカーブ壁(写真1枚目)はしっかりと継承されています. 現在ビルの西側は公開緑地となっていますが、旧ビルはこの部分まで東西に長く建っていました. 軒部分のテラコッタ(写真3枚目)は保存に向かなかったため、陶芸家が新規に型を作成して焼き直したものを取り付けており、オリジナルの一片はビル1階のサロンに展示保存されています.

このビルをシックに演出する褐色スクラッチ煉瓦の外装材(写真5枚目)は、全体の95%が旧ビルの煉瓦を再利用したものです. 旧ビルから取り出した煉瓦の数はなんと18万個. それらのひとつひとつの煉瓦についていたモルタルを手作業で取り剥がし、綺麗に洗浄した上で新ビルの外装材に使用しています. 取り外しに2ヶ月、洗浄に5ヶ月という半年規模の大掛かりな復元作業を経て、この外観は継承されているのです.
0196:ダイビル本館 南側に回り込む

0196:ダイビル本館 南側の新調煉瓦①

0196:ダイビル本館 南側の新調煉瓦②

0196:ダイビル本館 南入口

南側まで回り込むと旧ビルのファサードは途切れ、花崗岩ルーバーが連続する高層棟のファサード(写真1枚目 右)にガラッと変化. 旧ビルの煉瓦ファサードも、新規の煉瓦を大きな隙間を開けて並べた独特のファサード(写真2・3枚目)になっています. 隙間を開けて配置されるというのは、隙間なく積み上げるという煉瓦のイメージを逆手に取ったユニークなものに感じます.

館内のエントランスホールは、旧ビル時代のエレベーターホールに施されていた空間をごっそりエントランスに再現しており、2階部分の手すりやテラコッタの床材はオリジナルのものを再利用しているとのこと. 彫りの細かい天井のデザインは、旧ビルから型を取ってGRGというガラス石膏で復元したものです. 1階の脇にある黄金色に輝く私設郵便ポストは旧ビル時代からのもので、今でも郵便局員が集配に訪れる現役のポストだそうです. 当時は8階まで管が上に伸びていたそうですが、現在はこの1階のみに残ります.

新ビルの1〜2階は商業店舗も入居しており、その一角にある『ダイビルサロン1923』は、旧ビル8階に存在した『大ビル倶楽部』の雰囲気が再現されています. 私自身は旧ビルを実際に見たことがないので、旧ビルとの比較はできません. しかし素材や空間を限りなく残すことで、旧ビルの雰囲気を未来へと継承させようという思いはヒシヒシと伝わってきてきました. 日建の設計力と大林の施工技術によって、旧ダイビルは未来へとその姿を継承していくことでしょう.

※ お詫び
写真健全化に伴い内観の公開を停止します. 大変申し訳ありませんでした.



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