



最初は
「大阪ステーションシティ」が建つJR大阪駅北出口から. 手前には「グランフロント大阪」
(写真1枚目 右)が建つ中で、それでもなお巨大かつ独特な存在感で人々の目を惹きつけるランドマークとして、現在更地化しているうめきた2期の奥に鎮座しています. ビルの大半がミラーガラスで覆われており、周辺の空やビルが綺麗に投影されています
(写真2・4枚目). 屋上部は外壁が白くなっており、一部は雲のような形をしたデザインが見て取れます
(写真3枚目).
スカイビルの設計を手掛けたのは現代日本の建築家 原広司
(はら ひろし)氏です. 『原広司+アトリエ・ファイ建築研究所』という名義で「JR京都駅舎」や「札幌ドーム」など、これまでに数々の名作を手掛け、2013年にはこれらによる建築界への貢献が評価され日本建築学会大賞を受賞しました. 設計以外には、1970年代から独自に世界各地への集落調査・フィールドワークを実施しており、それらをまとめた『集落の教え100』は建築の名書として親しまれています.






大阪駅とスカイビルの間には現在未開発中のうめきた2期の敷地が広がるため、最短経路でこのビルへ向かうには敷地を横断する地下通路
(写真1・2枚目)を通る必要があります. 通路は片道徒歩で約3分と若干長め. スロープ付きのため、自転車もガンガン走ります. 北ヤードの西を走る特急用の短絡線が地下化され、うめきた2期の計画が本格的に進めば、この部分のアクセスはガラッと変わると思われます.
梅田北ヤードのすぐ西側に展開する『新梅田シティ』は、かつてこの地区に展開していたダイハツディーゼルや東芝の施設跡地を、積水ハウスと他3社がデベロッパーとなり1993年に完成させた再開発地区のことです. シティ内にはスカイビルの他に、ビルのすぐ南に建つ「ウェスティンホテル大阪」や「中自然の森」といった公開緑地があります. 北ヤード西側はこの地区以外に高層ビルがないので、スカイビルだけが目立つように建つのが地区としての特徴です.






写真3枚目までの前半は、スカイビルを北側から撮影したもの. ミラーガラスのツインタワーの上に、クレーターのような巨大円環が開けられた空中庭園がのっかるという、今見てもトンデモな門型のフォルム. 高さ173mとそれなりに高いビルなわけですが、ざっと50mほどの長いスパンがあるタワーの間を、あのボリュームの薄さと接地面だけで支えているというのは、今にも落っこちてきそうなギリギリ感があります. これが構造的に成立していることに驚くばかりです.
後半の3枚は、スカイビルのすぐ南側に立つ低層スペース「ガーデン5」と「ガーデン6」です. スカイビルとは別施設ですが、ミラーガラスや上部の雲のデザインを見るに、こちらも原氏がデザインしたものだと察することができます. スカイビルと違って建物が低い分、周囲の多くのビルがガラスに投影されているのが美しい. 雲のデザイン
(写真5枚目)は原氏の特徴的デザインの一つで「田崎美術館」や「ヤマトインターナショナル」でも見ることができます.






こちらはツインタワーの間、空中庭園の真下部分から撮影した様子. 地上部分は「ワンダースクエア」という広場になっているのですが、イベントで大勢の人がいたため撮影できず. ツインタワーの間に存在する構造物は他にもあり、空中庭園直通のエレベーター
(写真1枚目 左)や建物中層部をつなぐ空中廊下
(写真1枚目 中央)、タワーイーストの途中階まで伸びる非常階段
(写真1枚目 右)など、縦横の構造体が組み合わさった立体空中都市のような様相を示しています.
真下からツインタワー部分を見た各写真
(写真3〜5枚目)をみると、円や正方形や三角形など、様々な幾何学模様が組み合わさって全体が構成されています. 異なる要素が集まって全体を形作る構成は、原氏が何年にもわたって調査した世界の集落に基くデザインです. 北側の連絡廊下
(写真6枚目)もなぜそうなったかと突き詰めたくなるデザイン. 小さい頃はシンプルな門型近未来ビルという認識でしたが、今近くで見るといかにポストモダン的なデザインかを感じさせられます.






それではスカイビル名物の空中庭園へ. タワーイースト1階部分の一部が空中庭園専用の入口
(写真1枚目)となっており、そこから3階の連絡廊下を通って直通エレベーターで35階へ. 途中には新梅田シティ全体を示す模型
(写真3枚目)が展示されています. エレベーター内部の表示計はスカイビルの断面を表現したユニークなもの
(写真5枚目). 写真6枚目は中層の連絡ブリッジを撮影したものですが、撮影した全ての写真が構造梁に邪魔されて残念なものに…
模型に関する小話として、現在は2棟が連結するスカイビルですが、初期案ではホテル棟を北側に配置した3棟連結方式で、将来的には南側に4棟目を増築できるメタボリズムのような案として計画されていました. しかしホテル側が自立したいと要望があったため、ホテル棟のみが南側に建つというアンバランスなものに. もしこの目論見が実現していれば、スカイビルは四本足ビルという、生物のように成長する超高層ビルになっていたのかもしれません.






35階からは空中エスカレーター
(写真1枚目)に乗って上のフロアへ. 外から見た際に、円環の真ん中を貫く2つの構造体がこの上り線と下り線です. 単純に考えても高さ130m以上の場所にこんなエスカレーターをつくってしまう日本の施工技術がトンデモですが、当時工事を担当した方々は冷や汗ものだっただろうなと想像しています. ガラスからはかなり下の部分まで見えるため、高所恐怖症の方は注意してください.
エスカレーターをのぼると39階ですが、ここまではまだ無料フロア. この階には新しく整備された新エリア「空中クレーター」
(写真4枚目から)が2016年10月からお披露目となっています. 実は地上から見えた円環はすり鉢状となっており、その周囲をびっしりとガラスが覆っています
(写真5・6枚目). 原氏はこの空中庭園のミソとなるこのリングに『宇宙船が飛び去った痕跡』というイメージを抱いたそうです. 説明文には各タワーの1階エントランスの天井部には、その宇宙船の設計図が描かれているそうなので、後で行ってみましょう.






それではここから空中庭園への入場料を払って40階へと進みます. 大人1000円. ここはクレーターのガラスの上部分に相当するフロアですが、スペースは広くとられています. 階段が設けられた展望席
(写真2枚目)や飲食しながら眺められるスペース
(写真3枚目)など様々なスタンスで大阪の景色を一望できるのがいいところ. 中には写真4枚目のような金属フレームのかっこいい椅子も備え付けられています.
一部のスペースでは工事の模様を記録したビデオが上映されています. ツインタワーに挟まれて建つ空中庭園は、事前に基礎部分を地上で作成し、タワー両脇のガイドに沿ってワイヤーで引き上げる『ワイヤーリフトアップ工法』を世界で初めて採用して完成しました. 雨のコンディションの中で早朝に引き上げを開始し、毎分35cmの上昇を7時間かけて最上部まで引き上げました. 約1000トンの基礎を100m以上の高層部まで引き上げるという大作業は、当時世界的にも前代未聞の試みで、タワー間をつなぐ構造体をワイヤーで引き上げた事例は、今においてもこのビルだけだと思われます.






それでは最上階の「スカイウォーク」へ. 地上では晴れてたのが、いつの間にか曇り模様になっていました. 大阪梅田の高層ビル群や淀川の光景を、高さ170mの位置から眺め下ろすことができます. 外を向けは大阪の光景ですが、内側に見えるクレーター
(写真4枚目から)もすごい. ミーラーガラスの一枚一枚の角度が微妙にズレ込むことで、カクカクと連続した面白い投影を見せてくれています. 回転移動式の清掃用ゴンドラ
(写真6枚目)もユニークですが、正直怖そうです.




そしてこちらは空中庭園から降りてきて、各タワーの1階エントランスを撮影したものです. 『ビルのファサードを印象づけるアナロジーは、「空中庭園幻想」と「宇宙船」である』と語るほどに重要とされた宇宙船ですが、この設計図を解読するには原氏並の数学、哲学、現象学が必要となりそう. 集落から宇宙までと、原氏の想像スケールは超広大でした. 他にも入口上部
(写真3枚目)やエレベーターホール
(写真4枚目)にも掲げられているのでぜひ探してみてください.
200件目の建築紹介はここまでとなります. 『2つのビルの間から基礎を引っ張り上げて門型の超高層をつくる』という、世界的にも前代未聞なビルを完成させた日本ですが、その10年以上後に「マリーナベイ・サンズ」等の屋上連結超高層が出現するところをみると、かなり時代を先取りしていたデザインといえます. しかし、だからこそスカイビルは今なおも近未来的な超高層として、大阪梅田の中でも不動のランドマークとして確固たる地位を築いているのだと思います. ちょっと遠いですが、大阪に来たら見て損はないスカイビルへあなたもぜひ. ではでは今回はここまで〜
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