





宇治山田駅があるのは伊勢神宮外宮から少し北東に離れた場所. 外宮参拝の際は当駅よりも近い伊勢市駅で多くの方が降りるイメージがありますが、実際はこちらの方が乗降客数が多いです. 駅舎はクリーム色タイルで彩られた立派な近代建築. 中央に並んだ6本の列柱
(写真3〜5枚目)や頂上部に並ぶスペイン瓦や幾何学装飾
(写真6枚目)など、近鉄の途中駅としては豪華な造りになっています.
なぜ近鉄の途中駅がこのような豪華な駅舎になっているかといえば、過去にこの駅が近鉄の終着駅だったためです. 近鉄の前身会社の一つである『参宮急行電鉄』は、文字どおり伊勢神宮への参宮を目的として大阪〜伊勢間をつないだ路線(現在の近鉄大阪線と山田線)です. 1931年に全通開業した大阪上本町駅からの所要時間は2時間半で、これにより関西からの日帰り参宮を可能にしました. その時の伊勢側のターミナル駅がこの駅で、伊勢参拝の玄関口として栄えました.





こちらは駅舎外観の様子を入り口近くで撮影したものです. 駅舎手前はブロンズ装飾のある大きな庇によって、先程の列柱の柱頭などは見ることができませんが、入口や外壁には当時からのと思われるテラコッタ装飾が今なおも残っています. 基壇となる石張り部分にも所々に細かい装飾
(写真1枚目)が施されています. 個人的には壁面に施された花柄モチーフのテラコッタ装飾
(写真4・5枚目)が、非常にユニークで茶目っ気のあるデザインに感じました.
この駅舎の手掛けたのは、鉄道省初代建築課長を務めた久野節氏. 当サイトでは
「南海ビルディング(南海難波駅)」で初紹介しています. 三重県下の駅舎建築は他にも村野藤吾氏の「近鉄賢島駅舎」 が現存しますが、昭和初期から現存する近代西洋風駅舎は恐らくこれが県下唯一のもの. 昭和初期の名建築としてピックアップされることも多く、2001年には国指定登録有形文化財に指定されています.





こちらは入口を入ってすぐの構内広場です. かつてのターミナル駅なだけあって、構内はとても広々としています. 花形の照明や八角形の窓、和風障子のような2階開口
(写真4枚目)のデザインが特徴的です. 改札に至る階段は構内の両端にあるのですが、片方はチェーンがかけられて未使用
(写真2枚目 奥)になっています. 恐らく繁盛期は臨時改札口になるのでしょう.
駅には他にも天皇陛下や総理大臣が駅を訪問される場合に使用される『貴賓室』が設けられているのが特徴. 加えて2014年のお召し列車(名古屋〜宇治山田間)でも見られるように、当駅は現在でも伊勢参拝において皇族・政府要人向けの重要な駅としての役割も担っています. 天皇陛下が乗車される駅というと、何となくプレミアム感がありますね.





通常であれば駅舎の紹介で終了してしまうのですが、この駅の魅力スポットは駅のホームに2つほどあります. まず1つ目は1番線の隣に併設されている広いスペース. ここはかつて鳥羽線が開業する前の時代、鉄道では行けなかった賢島方面への特急バスへの利便性を高めるため、ホームと同一平面に設置されたバスターミナル跡です. しかしこの道路幅ではバスが方向転換できなかったため、奥に転車台
(写真3枚目)を設置して方向転換させていました. 1994年までは定期観光バス向けに使用されていましたが、現在は使用されていません.
もうひとつは4番線の一部に建つ塔屋
(写真4枚目)です. 実は宇治山田駅構内には1968年まで伊勢市消防本部が設置されており、通信手段が確立されていなかった当時は、この塔屋を火の見櫓として使用していたようです. 現在も階段
(写真5枚目)はありますが、手前には柵が設置され未公開となっています. 櫓からはどんな光景が見られるのか正直興味津々なのですが、公開される日はくるのでしょうか.
というわけで今回はここまでです. 近鉄(当時は参宮急行)の社運をかけて建造された豪華絢爛な宇治山田駅舎は、今後は近代レトロな文化財建築となって、今後も伊勢参拝客を出迎えていくことと思われます. 伊勢参拝の際にはこのレトロ駅舎にもぜひ足を運んでみてください. ではでは今回はここまで〜
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