




こちらでは博物館までの道のりを. 鉄道の最寄駅となるのは近鉄・JRの鳥羽駅ですが、博物館へは付近にあるバスセンターから発着するかもめバス
(写真2枚目)に乗車して約30分ほどかかります. 開館時間を考慮しても一日5〜6往復しかないため、時間は入念に確認する必要があります. 道中は志摩半島のリアス式海岸による美しい海の景色
(写真3枚目)を堪能できますが、海岸はアップダウンの激しい道が続くので相当酔います. 酔いやすい人は酔い止めを持参しましょう.






アップダウンの道のりを経て、博物館前にようやく到着. 手前駐車場奥に伸びる石のアプローチを進んで玄関へを向かいます. 書籍で何度も見た展示棟を見ながら「やっと来ましたよ内藤さん!!」と訪問できたことにガッツポーズしていたのもいい思い出. タール塗装された杉板外壁
(写真3枚目)がいかにも漁村集落の建物らしい. アプローチ右側にあるカフェは2003年に増築されたもので、開館当初のアプローチはカフェのあるライン上にありました. 玄関前のキャノピー柱にある石積みの山のデザイン
(写真5枚目)もいいですね.
博物館自体の開館は1971年ですが、以前の建物が博物館施設として劣悪だったことの他に、約6800件以上の実物資料が国の重要有形民俗文化財に指定されたことを契機として、1992年に全面移転したのがこちらの建物です. 収蔵物を100年は保護するという目的から、敷地は伊勢湾台風で被害を受けた海抜よりも高い場所(12.5m)に、伊勢湾の塩害に強い素材として木が中心的に用いられています. 1993年に建築学会賞を受賞. 内藤氏の出世作となる平成初期の名建築です.





それでは館内へ入っていきます. 入館料は大人800円で、受付に確認したところ写真撮影・掲載はご自由にということでした. こちらは受付の入る「収蔵棟A」です. 2フロア吹き抜けの館内は、大断面集成材による木の大空間になっています.
「牧野富太郎記念館」や
「JR高知駅舎」でも散々見てきましたが、内藤氏の木の構造デザインはどの建築においても素晴らしい. 木が本来持ち合わせている力強さをストレートに、かつアーチ状に美しく表現しています. この構造体のモデルは、蛇の骨角模型をヒントにして出来上がっています.
展示棟Bも同様の空間構成のため割愛しますが、海の博物館で展示のキーワードとなるのは『海民(かいみん)』. 即ち漁師・海女、そしてそれらに携わる人々が培ってきた道具や資料が、私が目で追うだけでも大変なほど大量に展示されています. 平成27年度時点の実物資料点数はなんと約6万点. 実物大の船舶や生産加工道具だけでなく、漁業関連の神事の様子や鳥羽水軍の資料など幅広く展示されています. 受付横には建築関連の受賞コーナー
(写真5枚目)も設けられています.






博物館全体は分棟配置で、別の展示室へは一旦外へ出て移動します. 入口に掲載された館内マップ
(写真1枚目)を見ると、その全体がよくわかると思います. 集成材アーチが見事な「展示棟A」
(写真2枚目)と「展示棟B」
(写真3枚目)は西側に展開する「水の広場」
(写真4枚目 手前)を間に挟んで両側に建ちます. バブルの背景にも関わらずローコストで建てられており、たまに海側からの風が強く吹くと、扉などがギイギイと唸ります. その様は、漁村集落に古くから存在する蔵のようです.
博物館内の殆どの施設は瓦葺きです. これは海側の塩害によりトタン葺きは数年で穴が開いてしまうため、ちょっとでもお金のある人は瓦を載せるという周辺の漁村集落の知恵を取り入れています. 実際ちゃんとした瓦は、メンテなしでも100年もつそうです. そして軒瓦
(写真6枚目)には、星型と格子型の模様が確認できます. これは陰陽道における魔除けの印で、格子型は『ドーマン』、星型は『セーマン』と、海女さんの習俗に由来するデザインを屋根に取り込んでいます.






こちらでは展示棟よりも高い位置に建つ各施設を掲載しています. 館内施設の竣工時期はかなりバラバラで、最初にできた3棟の「収蔵庫」
(写真1〜3枚目)は1989年、先述した「展示棟」は全面移転と同年の1992年、1階が杉板型枠コンクリートになった「体験学習館」
(写真4・5枚目)は1998年と、実に長期間にわたって内藤氏は設計に携わっています. 南側にある高台からは、瓦屋根が連続する漁村集落さながらの風景と、その奥に広がる志摩半島の緑と一度に楽しめます.







そしてこちらは、展示棟と並んでメインとなる「収蔵庫」です. 建物は3棟ありますが、一般的に公開されるのは入口から奥手にある「船の棟」だけで、土足厳禁なのでスリッパに履き替えて入館します
(写真2枚目). 内部には80隻に及ぶ国内から収集された木造船
(写真3・4枚目)がスペース内にビッシリと並び、その上覆うプレキャストコンクリートのアーチ
(写真5・6枚目)が大胆に展開します. 木造船が端から端まで並ぶ姿は圧巻ものです.
特筆すべきポイントとして、この収蔵庫には機械空調がありません. しかし博物館である以上は、温湿度管理は必須です. では湿度環境をどうやって管理しているかというと、地面に展開する三和土(たたき)土間が、室内の湿度変化に応じて湿気を吸ったり吐いたりして湿度を安定的に保っているようです. 書籍では内藤氏本人はまぐれ当たりと述べているのですが、自然の力を味方につけたエコロジー空間になっています. 訪問したのは冬場ですが、そこまで乾燥していないというのは肌で感じました. 自然の力ってすごい.





博物館としての紹介は終わりなのですが、建築好きなら今のうちに見ておきたい建物が、博物館から北(山側)へ100mほど離れた近くの場所にあります. 竣工当時の建物名は「志摩ミュージアム」で、設計も同じく内藤氏です. 2003年には俳優の岩城滉一氏が買い取ってモーターサイクルパビリオンにしたようですが、現在は廃墟状態になっています. 館内は入れませんが、中央のエントランスまでは入れる様子. 博物館と同じトップライトですが、下部構造はワイヤーフレームでした. いつ解体されてもおかしくはありませんので、お越しの際はセットで見ておきたいところです.
というわけで、2016年最後の建築紹介はこれにて締めとさせていただきます. 今年は
「JR東京駅舎」から始まりましたので、2016年で紹介できたのはおよそ170件ほど. 我ながらかなりのペースで紹介できたように思えます. 最後を内藤さんの作品で締められたもの個人的に感無量です. ARCHI'RECORDSは今後も続きます、少なくとも都道府県全制覇するまではどうしても終われません(笑). 2017度もよろしくお願いします.
それではみなさまよいお年を〜
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