





郵船ビルは『メリケンパーク』の東玄関となるメリケン波止場前交差点の角地に建つ石張り3階建ての建物. 東西に長い建物ですが、メインのファサードは居留地に向いた東側
(写真2枚目)です. 建物中央部と全体的に前に押し出し、入口両脇にドリス柱を2本ずつ. その真上に設けられた奥行きの深い半円アーチ
(写真3枚目)はネオバロックを意識しているように感じます. 入口のペディメント
(写真4・5枚目)は、渦巻きの流線的なデザインがとてもオシャレです.
川崎汽船・商船三井と並ぶ3大海運会社『日本郵船』の神戸支店として計画された郵船ビルは、当時はまだ珍しかった鉄骨やRCによる複合構造を取り入れて完成した、神戸港における現代素材建築のパイオニア的存在. 竣工当時は屋上にドーム屋根が存在しましたが、1945年の神戸大空襲により焼失. 郵船ビルが建てられる前は『メリケン』の由来となった神戸初の米国領事館が建っていたようで、交差点側にそれを記念したプレート
(写真6枚目)が設置されています.






こちらは海岸通に面する南側のファサードです. ビルは全体的に曾禰中條事務所が得意とした古典様式で、2階上部の軒蛇腹(コーニス)を境に下層はドリス式、上層はコリント式を基調とした2層構成になっています. 窓の装飾
(写真3枚目)や南側入口の扉
(写真6枚目)にみられる植物のような曲線デザインは、当時まだ流行にあったアール・ヌーヴォーに影響されたものでしょうか. 入口の三角ペディメント
(写真5枚目)も立派なもので、両脇に飾られた真珠の装飾が素敵です. これは当時盛況だった真珠貿易を反映させたものですね.
この建物も1995年の阪神・淡路大震災の被害を受けました. しかし偶然にもその前年に耐震補強工事を実施しており、結果的に軽微な被害で収まったそうで、なんとも運の良い建築だな〜と思います. 日本郵船支店の役目を終えた現在はテナントビルとして活用されており、1階は紳士服店として営業されていました.




最後は北側
(写真3枚目まで)と西側
(写真4枚目)の外観を見ていきます. こちら側にまではコーニスはまわっておらず、扱いとしては完全に裏手です. 北側では先程と別の窓格子
(写真3枚目まで)を発見. こちらもデザインがオシャレです. 西側も白一色のザ・ビル裏という感じですが、北側の一部開口がアーチ状になっている
(写真4枚目 左)のが気になりました. あそこは元々重役室だったのでしょうかね.
今回で海岸通に連続して並ぶ近代建築は一通り紹介し終えることになります. 見返してみると日本郵船(このビル)・商船三井(
「商船三井ビルディング」)・川崎汽船(
「神港ビル」)と、現在も日本をリードする海運企業がこぞって海岸通に自社ビルを構えた激戦時代の名残が、今の海岸通の街並みの多くを形成しているんだと気付かされます. 今後も大きな危機に見舞われることなく街並み資源として残ってほしいものです. 海岸通の建物は次回で最終回です.
◆ このスポットに関連する建築マップ
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神戸建築マップ(神戸港編) - 神戸港周辺をメインとした建築マップ
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