





スタートは雪の科学館前バス停
(写真1枚目)から. バスをご利用の場合はJR加賀温泉駅からの路線バス(加賀温泉バス 温泉片山津線)で16分ほどで、これ以外にも周遊バスが出ています. 片山津温泉街からも徒歩で移動可能な距離で、実際に総湯前から歩いて約15分ほどで到着できた気がします. 科学館は柴山潟の西岸に広がる『柴山潟湖畔公園』
(写真2枚目 公園案内図)の一角に建っており、周囲は森林が広がる緑豊かな公園空間. 残暑も過ぎ、暑さも些かマシになった時期の訪問でした.
写真3枚目からは科学館までのアプローチの様子を. 上には青空、周囲には木々の緑、広大な芝生のスロープの先にユニークな六角形状の建物が連なっている. アプローチの段階から魅せてくれますね. 建物は周辺の木々より少し高い程度の高さになっているため、ちょっと横に逸れると木々の緑に隠れてしまう
(写真4枚目)のもニクい. 建物としての存在感と周囲の自然環境への調和が程良くマッチして、この優美なアプローチが形成されているように感じました.






正面外観をじっくりと観察. 芝生側からだと隠れる1階
(写真1枚目)は、建物両脇を珪藻土仕上げの外壁で挟み込み、土の遺跡・洞窟のようなドッシリとした基壇を形成しています. 中央部に柱のない橋
(写真2枚目)の構造も気になる一方で、その橋下の階段に設けられた定礎石
(写真3枚目)が隠れキャラのような感じで設置されているのも面白い. 木板で外壁が仕上げられた六角塔
(写真4枚目以降)は、経年によって落ち着いたグレーの外観になっているのが個人的にグッときました.
1994年竣工の科学館は「アートプラザ(旧大分県立図書館)」や
「奈義町現代美術館」、「ロサンゼルス現代美術館」等の代表作で知られる建築家・磯崎新氏が設計. 加えて構造担当は「国立代々木競技場」の構造設計に携わり、『パンタドーム構法』の開発者としても知られる構造家・川口衞氏です. 1998年に磯崎氏設計の「なら100年会館」がパンタドーム構法で施工されるのは知ってたものの、川口氏がここの構造担当だったことは、来訪するまで知りませんでした.






では館内へ. 入館料は一般500円で、有料ゾーン内の写真はロゴ付き
(利用・転載厳禁)にしています. 手前2つの六角塔内は連続したエントランス
(写真1枚目)となっており、各塔の真上に設けられた六角形状トップライト
(写真2・3枚目)を経た自然光が、真っ白な館内を明るく照らします. 窓の形状が雪の結晶状にデザインされ、結晶が影となって館内に落ちてくるという仕掛けが面白いです. 逆にこちらから見上げれば、雪が降りてくる空が見えるという逆の展望もいいですね.
3つ並ぶ六角塔の一番奥は、中谷氏に関する短編映画(約25分)が上映される「映像ホール」
(写真4枚目)です. 中谷氏の交流や研究、生涯の軌跡をわかりやすくまとめた映画も素晴らしい. しかし建築的な見所は上映後、スクリーンが上に移動した際に見えるガラス展望
(写真5枚目)にあります. 奥手にガラス張りのカフェ、さらに奥には柴山潟、更に奥にうっすらと白山連峰が長く連なる加賀片山津の絶景. 上映後はすぐ立席せず、少し待ってみるといいかもしれません.






エントランスから階段を降りて1階「展示室」へ. 空ともつながる真っ白な六角塔空間との連続性を断ち、あえて細い階段
(写真1枚目 左)で地下の洞窟感を見せるアプローチ. 短編映画の中にブリザードの厳寒を避けるため、氷の洞窟らしき空間で中谷氏が研究を行うシーンがあり、知の殿堂たる展示室をそういう洞窟に見立てたのかなと勝手に想像してました. 仮にそうなら1階の洞窟感としての珪藻土外壁の仕上げに納得がいくのですが、あくまで想像です.
中谷氏は私自身も思い入れのあるお方で、大学時代の研究の参考書として『科学の方法』や『雪』をよく読んでいました. 天然雪の結晶を調べ、人工雪装置を作り、装置から得た知見で遥か上空の大気の状態の把握に役立てる. 科学研究の奥深さを知る良書としてお世話になりました. 普段建築しか頭にない私ですが、磯崎建築のみならず中谷氏の研究にも興味アリという珍しい探訪となりました.
写真の後半
(写真4枚目以降)では、館内で実施される実験の様子(内容はたびねすと重複するため割愛)を掲載しています. 氷点下の極寒の気候で生成される雪や氷の自然現象を、ただ展示物としてだけでなく冷凍庫等を使用した実験という形で体験させてくれるというのは、とても素晴らしい試みだと思います. 氷のアクセサリー片手に中庭ではしゃぐ子供達の笑顔を見ていると、実際に見て触れる体験は強く思い出に残るだろうな〜と思います.






展示室奥のガラス戸を抜けて、『グリーンランド氷河の原』と称される中庭に出てきました. 庭一面に転がる石は、晩年の研究の舞台となったグリーンランドから運ばれた60トンもの氷河堆石. 運ぶだけでも大変だったろうなと思われます. この中庭は『霧の彫刻家』として知られる中谷氏の次女・中谷芙二子氏が修景を担当. 同氏の霧の作品を私はアートイベントで一度鑑賞しており、石の間から噴出する霧が刻一刻と表情を変えて中庭を漂っているのがいい感じでした.
中庭の先に見えるのはガラス張りの喫茶店
(写真3枚目)ですが、先に奥の階段
(写真4枚目)を通って柴山潟の方まで抜けてみます. 蝉の鳴き声も少なくなり、たまにトンボが横切っていく晩夏の柴山潟
(写真5枚目). 潟につながる石敷きの階段空間が、周囲の自然から独立して人造的な雰囲気を出しています. 正面では木々に隠れていた土壁の基壇
(写真6枚目)が、ここでは建物外観として奥からずーっと伸びてきているのが印象的です. ちなみにこの裏手や中庭には無料で入れます.






そして最後はガラス張りの喫茶室「Tearoom 冬の華」で、中谷氏の著書のひとつ『冬の華』が由来であろうと思われます. 先ほどの階段広場から少し高い位置で、柴山潟・白山の眺望が見れる絶景カフェ. 九谷焼の器でいただく加賀珈琲や、雪の結晶の形をしたお菓子
(写真3・4枚目)がいただけます. ちょうど正午になった時、潟の奥から大きな噴水
(写真5・6枚目)が上がる場面に遭遇できたのもよかったです.
館内をご案内いただいた方からは「冬には周囲の木々の葉が落ちて白山がよく見える」・「冬には付近の鴨池から3〜4千羽の鴨が潟にやって来る」という話もお聞きして、なにそれ面白そう冬も来てみたいという思いに. 緑の冴える夏の科学館を満喫したので、次は雪の季節たる冬の科学館を拝みたいと思います. それでは.
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