





図書館は金沢城から西に離れた『玉川公園』の近くにあります. 金沢城西地区の核となる公園ですが、かつてここには『加賀八家』と称される加賀藩の主要家老の一つ・長家(長氏)の屋敷があった
(写真2枚目は説明看板)とされています. 長家の石高は八家中、本多家に次ぐナンバー2の三万三千石といわれており、家老とはいえ小規模な藩・大名よりも強い力を持っていたようです. さすがは加賀百万石.
公園の北隣に建つパープルな色合いをした建物が図書館本館. 外壁に用いられているコールテン鋼は表面を錆びさせる代わりに、内部の錆を防ぐという珍しい鋼材. 試しに検索をかけてみると茶褐色系の色をした建物が多くヒットしますが、こちらは築約40年を経て色落ちしたためか、藤紫のような落ち着きある色合いを出しています. 下部に連続するガラスや入口中央でカーブするスチール壁
(写真5枚目)など、個人的に本当に70年代の建築かよと思ってしまう現代的なデザインです.





パープルでモダニズムな本館のすぐ北に建つ、赤レンガのレトロな佇まいをした建物は「近世史料館」と称される別館です. 各階の大きなアーチ窓
(写真2・3枚目)と、美しいイギリス積みのレンガ壁
(写真5枚目)が特徴です. 元はJTの前身である日本専売公社のたばこ工場として1911年に建造されたレンガ建築.
「旧石川県庁舎(現:しいのき迎賓館)」等を手がけた矢橋賢吉
(やばし けんきち)氏が手がけたと推定され、1996年に登録有形文化財に指定されました.
冒頭で長家の屋敷跡があったと説明した玉川公園とその一帯ですが、1972年までは先述のたばこ工場が稼働していました. 工場移転後は工場の一部(旧C-1号工場)を金沢市が譲り受け、南隣に本館を増築する形で図書館が完成します. 図書館本館は「帝国劇場」を手がけた昭和の建築家・谷口吉郎氏と、その息子の谷口吉生氏が親子で共同設計した唯一の作品です. 金沢では他に谷口吉郎氏が
「石川県立伝統産業工芸館」を、谷口吉生氏が「鈴木大拙館」を手がけています.





こちらは本館と別館の間に位置するスペースから撮影したものです. 本館のコールテン鋼は既に紫色にまで色落ちしているように感じますが、竣工当時は別館のレンガに似た赤・茶褐色だったのでしょうか. 生憎竣工時の写真を見つけることはできませんでしたが、別館の赤レンガと見比べながらそう思います.
本館の下部分の開口
(写真3枚目)を覗くと、そこは別館と連続するようにレンガタイルが敷かれた中庭
(写真4・5枚目)です. 歴史的なレンガの建物から、緑色の巨大梁やガラスウォールもある現代的なレンガ空間へと、空間の調和が図られています. コールテン鋼の外壁裏や開口枠にまで、タイルがビッシリと張られる徹底ぶりには驚きました. 館内への日照を緑化でカバーしてる
(写真5枚目)のもイイです.






ここまで本館と別館の対比や調和に関して色々と語ってきたわけですが、本館だけを見れる南側からの景色が、私個人ながら大変気に入っています. とにかく色落ちしたこの壁の色合いが、玉川公園の木々の緑に大きな違和感なく溶け込む風景
(写真1枚目)が素晴らしい. 別館と相対しアクティブな調和を見せるのが北側ならば、南館は緑の風景にひっそり溶け込むという真逆の姿勢. 緑とレンガ、どちらに対しても上手く馴染んでいるのがステキでした.
父・谷口吉郎氏にとっては晩年作、子・谷口吉生氏にとっては初期作という、親子のバトンタッチを象徴するような現代モダニズムの図書館建築. 訪問当日が月曜だったため中に入れなかったことが悔やまれますが、外観だけでも色々と発見があり、竣工から40年という歳月を経ても色あせない見事な図書館でございました. 今度は別館含めて、内部も是非拝見したいと思います.
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