しいのき迎賓館(旧石川県庁舎) - ARCHI'RECORDS(アーキレコーズ)- 建築紹介・建築探訪録        

しいのき迎賓館(旧石川県庁舎)

           
0278:しいのき迎賓館 メイン

0278 - しいのき迎賓館(旧石川県庁舎)
竣工:2010年(迎賓館)/ 1924年(県庁舎)
設計:山下設計(迎賓館) / 矢橋賢吉(県庁舎)
住所:石川県金沢市広坂2-1-1

皆様どうも. 金沢市中心部特集その7件目は、前回紹介した「石川四高記念文化交流館」の東隣に建つしいのき迎賓館です. 建物はかつてこの広坂地区にて県政を行っていた旧石川県庁舎を、複合文化施設として大きくリニューアルしています. 戦前レトロな佇まいを残す、石川県政の中心として建造された旧庁舎建築スポットの探訪記をお送りしていきます.
0278:しいのき迎賓館 南側外観①

0278:しいのき迎賓館 南側外観②

0278:しいのき迎賓館 南側外観③

初めは昼頃の外観写真を掲載しながら、県庁ということで石川県について少し. 石川県の発足は1872年の金沢県改称の時で、当時存在した『石川群』が名の由来. 発足直後の石川県は富山県全域と福井県北部も含んでいましたが、後にこれらの2つが分県. 現在の県域になるのは1883年頃です. 石川県は金沢を含め本土空襲を一切受けなかった希少な県で、その中心の金沢には城下町時代の町屋からレトロ近代建築、そして現代建築が密集するユニークな都市となっています.

金沢城公園のすぐ南に建つ迎賓館は、冒頭の通り旧県庁舎として1924年に完成しました. 武豊産茶褐色スクラッチタイルを柱部分に集中して貼ることで垂直性を強調(写真3枚目). 上部に細やかな装飾が見られますが、全体的には近代モダンのスッキリとした佇まいです. 設計は大蔵省技師として長く活躍した営繕建築家・矢橋賢吉氏. 「国会議事堂」の計画をまとめた中心人物として知られ、他にも「旧山口県庁舎」や「旧岐阜県庁舎」といった庁舎・官庁施設を多く手がけています.
0278:しいのき迎賓館 正面①

0278:しいのき迎賓館 正面②

0278:しいのき迎賓館 正面③

0278:しいのき迎賓館 東側外観①

0278:しいのき迎賓館 東側外観②

0278:しいのき迎賓館 東側外観③

写真前半は、建物正面から撮影したものです. 竣工から約78年にわたり親しまれた庁舎ですが、2003年に現在の3代目庁舎が完成したことで機能移転. 歴史的建造物としても価値のある県庁舎を多目的複合施設としてリニューアルして、2010年にオープンしました. 施設名は建物手前に樹立する国指定天然記念物『堂形のシイノキ』という一対のシイノキ(写真1枚目 両脇)が由来となっています.

写真後半は建物の裏手となる北側の外観ですが、建物は途中からガラス張りの現代的なデザインに一変しています. 以前は建物の両隣や裏手にも存在した県庁各施設は解体・芝生広場として整備されますが、それにより広く見渡せるようになった金沢城の遺構を眺められるよう、建物の北側を開放的なガラス空間へと改築されています. 百万石通りに面する県庁時代のファサードと、金沢城に面する現代的なファサード. 建物保存の観点では賛否両論あると思いますが、歴史ある外観を一部でも今に残してくれたことに感謝したいです.
0278:しいのき迎賓館 夜の外観①

0278:しいのき迎賓館 夜の外観②

0278:しいのき迎賓館 夜の外観③

0278:しいのき迎賓館 玄関①

0278:しいのき迎賓館 玄関②

0278:しいのき迎賓館 玄関③

0278:しいのき迎賓館 玄関④

館内へは昼ではなく、夕暮れ時に入りました. 周辺の公共・文化施設の大半は午後5時前後に閉館しますが、こちらは午後10時まで開館しています. 撮影時は丁度ブルーアワーのタイミングだったため、白い壁面が薄い青色に染まる幻想的な外観が撮れました. エントランスに入って軽く見回してみる(写真6枚目)と、建具や漆喰装飾など新しく復元させているように見えます. 受付窓の横には、庁舎閉庁から迎賓館開館まで掲げられた旧県庁の表札(写真7枚目)がありました.
0278:しいのき迎賓館 エントランス①

0278:しいのき迎賓館 エントランス②

0278:しいのき迎賓館 階段①

0278:しいのき迎賓館 階段②

0278:しいのき迎賓館 階段③

0278:しいのき迎賓館 南側廊下

受付にて掲載OKの確認をもらい館内へ. エントランスを抜けると手前に見える「中央階段」は、県庁時代からのものがほぼ現存の形で引き継がれています. 中央から両側へ分岐する折れ方は、やはり県庁の階段って感じがします. 1階の床に敷かれた古めかしいタイル(写真2枚目)も、恐らく県庁時代のものを再利用しているのでしょう. 再利用できる素材を可能な限り生かし、加えて精度の高い技術で復元することで、目新しさのない見事な改修が行われています.

3階まで階段を上ると、踊り場の上の方に緑と白の色合いをしたステンドグラス(写真4・5枚目)がはめ込まれています. あちらも1924年の竣工当時から設置されていたもので、その裏手は当初貴賓室になっていたそうです. 階段が面する建物南側は、外壁だけでなく構造躯体も当時のものを補強・活用しています. 内装は綺麗になっていますが、旧庁舎の空間の大きさというのは大体これぐらいだったということでしょう. 今はセミナー室やギャラリーとして利用されています.
0278:しいのき迎賓館 しいのきプラザ①

0278:しいのき迎賓館 しいのきプラザ②

0278:しいのき迎賓館 しいのきプラザ③

0278:しいのき迎賓館 北側2階①

0278:しいのき迎賓館 北側2階②

0278:しいのき迎賓館 北側3階

そしてこちらが解体の後に増築された北側の内観です. 1階部分は兼六園周辺の総合案内も行う「しいのきプラザ」(写真1・2枚目)となっています. 既存南側の境界となる壁面の上部分にはトップライト(写真3枚目)、巨大ガラスウォールからはライトアップされた金沢城公園がハッキリと見えました. 歴史的建物の数スパン分だけ躯体を残し、残りは吹き抜けやガラスで現代的に改築する手法は「KITTE(旧東京中央郵便局)」と似たスタイルだなと、個人的ながら思いました.

旧庁舎の雰囲気を可能な限り復元し、現代的空間を挿入して新しい価値(金沢城への眺望)を取り入れる. 古い建築を積極的に活用する施設の多い金沢という土壌もあったからこそ、こういう前衛的な県庁舎活用ができたのかもしれません. 私は一部でも外壁が残れば見にいく性分ですが、見てるだけでも絵になる素晴らしい庁舎を、将来に繋げる形でよく継承してくれたな〜と思いました. それでは.


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