日本工芸館 - ARCHI'RECORDS(アーキレコーズ)- 建築紹介・建築探訪録        

日本工芸館

           
0028:日本工芸館 メイン

0028 - 日本工芸館
竣工:1960年
設計:浦辺鎮太郎
住所:大阪府大阪市浪速区難波中3丁目7−6

どうも皆様. 突然ですが『民芸』という言葉をご存知でしょうか. それは『焼き物・陶器・箸やお盆など、日常的に使われる工芸品=民芸品』を中心とした工芸芸術のことです. それは『何気ない日常品に宿る美しさ、ないしはそれらを扱う心地よさ・楽しさ』に価値を見いだすものであり、今日の『プロダクトデザイン』の源流を成すものです. 20世紀前半では美術界からは蚊帳の外とされていましたが、柳宗悦(やなぎ むねよし)らは、これら民芸品を造る無名の工人によってつくられた民芸品の芸術を世に広めようと、1926年を皮切りとした『民芸運動』を展開させます.

民芸運動は21世紀の現在でも続いていおり、その民芸品を保存・展示する施設が大阪難波にあります. 南海難波駅から阪神高速の高架道路を潜ってしばらく西へ向かうと、高層住宅や雑居ビルの密集するエリアに一つの看板の建つユニークな形状をした建物が見えてきます. その施設の名は日本工芸館、今回はこの建築の紹介です.
0028:日本工芸館 外観①

0028:日本工芸館 外観②

0028:日本工芸館 エントランス

0028:日本工芸館 入口

この独特の外観を見て皆さんは何を連想しますか. 私は日本の天守閣を思い起こさせます. しかし屋根部分は瓦葺きではなく、コンクリートに縦目地という仕上げで、どこか『ブルータリズム』に似た荒々しさのある外観です. 上部分には、城郭建築にある窓のようなものが一つだけポッカリと開けられ、全体的に色がくすんで時間の流れに取り残されたかのような気がしてなりません. 1960年代のコンクリートの施工技術がどのように進歩していたかはわかりませんが、パネコート(化粧板)で仕上げる表面ツルツルの打ち放し建築とは一線を画す、非常に造形性に富んだRC建築です.

先程も軽く述べた通りこの施設は民芸品を保存し、その工芸技術や活動を人々に普及させることを目的として、日本民芸協団によって設計させた文化施設で、当時の焼き物や陶器・ガラス細工などを展示しています. この設計に携わったのは建築家 浦辺鎮太郎(うらべ しずたろう)氏です. 岡山県倉敷出身で、大阪に本社をおく『株式会社 浦辺設計』の創始者でもあります. 「倉敷国際ホテル」と「倉敷アイビースクエア」で2度もの建築学会賞受賞歴をもつ有名建築家であり、大阪に残る作品としてはこの建物が唯一だと思います.
0028:日本工芸館 本館①

0028:日本工芸館 本館②

0028:日本工芸館 本館柱部分

0028:日本工芸館 外廊下①

0028:日本工芸館 外廊下②

それでは内部へ. 入口のあるお城ファサードの部分が本館で、奥に別館のある2棟配置になっています. 本館は各階ワンルームの展示スペースで3階には外縁となる外廊下があります. コンクリートの仕上げが木板模様だったので、当時行ったときは「これが60年代の木板仕上げかぁ〜」とまじまじと観察していました.

階段スペースから壁面をみるとフロア境界の部分は普通のコンクリート、それ以外の部分はブロックコンクリートで仕上がっており、継ぎ接ぎ感ゆえの荒々しさ・粗野さがでていて面白いです. 柱梁の接合部分には木製のカバーで隠されていました. ハンチ隠しでしょうか、気になります.

そして外観に一つだけあった窓?のある3階の外廊下です. そとは太陽の出た夕暮れ時で、ある程度明るかったのですが、この廊下は写真と同じような暗さでした. 床の両端に並べされた民芸品をダイレクトに照らすように光が差し込みます. そして肝心の窓からの眺めは写真のとおり…集合住宅を建設中でした. ここに出窓を付けるということは、この向かい側は印象的な景色があったのでしょうか. 集合住宅の前にあそこには何があったのか、わかる人はご教授願います.
0028:日本工芸館 屋上①

0028:日本工芸館 屋上②

0028:日本工芸館 別館との接続梁

0028:日本工芸館 別館①

0028:日本工芸館 別館②

屋上に出ると民芸品の焼物がビッシリと置かれていました. 3方をマンションに囲まれているため、太陽が照りつけることはありません. 雨防止のために後付けした屋根ですが、まだないほうがよかったかな〜と思ってしまいます. そして本館から別館へと渡る際に、明らかに不自然な出っ張り部を発見しました. 建築に携わる人であれば「どうしてこうなった…」と言ってしまいそうな接合です. 耐震上の配慮か単なる構造補強か…この謎がわかる人いませんか〜

そして別館は本館とは打って変わって、廊下のあるモダンシックな内観になっていました. 壁面仕上げは奇麗に白一色に、木材も所々に取り入れ、球体状の照明ランプがあったりと、本館の荒々しさとは対称的に洒落た空間になっていました. 別館も浦辺氏の設計だと聞いたのですが、誰かが後から別館だけやり直したのでしょうか. 不思議な感じです.

というわけで今回は難波にひっそりと残る浦辺建築を紹介しました. 興味がある人はこれを見ながら、民芸作品にも興味をもってみてはいかがでしょうか. それでは今回はここまで〜


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