大丸心斎橋店 本館 - ARCHI'RECORDS(アーキレコーズ)- 建築紹介・建築探訪録        

大丸心斎橋店 本館

           
0029:大丸 心斎橋店 メイン

0029 - 大丸心斎橋店本館
竣工: 1933年
設計:ウィリアム・M・ヴォーリズ
住所:大阪府大阪市 中央区心斎橋筋1-7-1
選定:DOCOMOMOセレクション(100選:No.30)
特記:2015年12月 閉館・解体

皆様どうも. 少し悲しい話ですが、建築にも寿命があります. それはつまり建築家が試行錯誤し、その時代の様式を反映させた貴重な意匠や当時の職人技の賜物がなくなるということです. 最近では一部の外壁を残して建替えることが定番となってきてますが、「オリジナルじゃない、ハリボテだ」という人がいるように、慣れ親しんだ建物の愛着は一部保存程度ではなかなか取り戻せないのも事実だと思います.

そんなムーブメントが各地で起こる中、今年7月に大阪心斎橋にある大丸心斎橋店本館が12月30日をもって閉館、建替えられるというニュースが流れました. 建替え後は高層階オフィスが現本館から御堂筋側からセットバックする形で増築し、御堂筋側の外観と、1階の売り場のデザインは保存するようにするという報告も出ています. 私個人としても非常に惜しいということで、大阪心斎橋の顔として親しまれてきた大丸本店のデザインを拝見しにいってきました.
0029:大丸 心斎橋店 御堂筋側外観①

0029:大丸 心斎橋店 御堂筋側外観②

0029:大丸 心斎橋店 入口上部装飾

季節は少々冷え込んだ10月末の夜時、御堂筋の所々でイルミネーションが付けられている中、本館にもイルミネーションが取り付けられていました. 百貨店大丸の歴史は古く、その起こりは1736年の京都店の開店から始まり、三井越後屋、白木屋と並ぶ老舗の呉服屋として名を馳せました. 実はこの大丸は2代目で、初代は1918年に木造4階建ての百貨店としてオープンしましたが、わずか1年半で焼失、鉄筋コンクリート地上7階建ての現本館となって今に至ります.

設計を手掛けたのはアメリカ出身の建築家 ウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏です. 1905年に近江八幡の学校に英語科教師として来日、その後は京都に事務所を構え西日本を中心に教会や学校施設などの設計に携わりました. また建築家だけでなく起業家としても活動し、近江八幡にヴォーリズ合名会社を創立します. 現在はリップクリームの『メンターム』で知られる『近江兄弟社』として営業しています. 間違えやすいですが『メンソレータム』はロート製薬のリップクリームです

ゴシックリヴァイヴァルという西洋様式をベースとして、幾何学模様・図形を中心としたアール・デコ調を至る所に取り入れた、装飾的完成度の高い建物となっています. 御堂筋側の外壁は上から「白・茶・白」の横ストライプの色仕上げという味のある色合いになっており、百貨店玄関の扉上部分には8角形を分割したような細やかな装飾が施されています.
0029:大丸 心斎橋店 心斎橋筋側外観

0029:大丸 心斎橋店 孔雀のレリーフ

0029:大丸 心斎橋店 旧そごう本店

ぐるりとまわってこちらは裏手の心斎橋筋商店街からの外観です. アーケードで隠れてしまっているので、細やかな装飾はあるものの御堂筋側と比べると全体的な装飾性は控えめです. しかし入口上部分にある孔雀のレリーフの装飾はとても美しい. まさに職人技、西洋建築の装飾には目を見張るものがあります.

余談ですが、大丸心斎橋店は本館だけでなく東館・北館があります. 写真のガラスのある建物は北館ですが、この建物は元々『そごう』の心斎橋店だった建物です. 実はこの心斎橋店ができる前には、昭和建築界の重鎮 村野藤吾が設計した「そごう大阪店」が大丸と並んで建っていました. こちらも建築的な評価の高かった百貨店建築なのですが、こちらは2003年に解体されました. 一部保存とはいえ大丸も同じような道を進もうとしていることにもどかしさを感じます.
0029:大丸 心斎橋店 1階売り場デザイン①

0029:大丸 心斎橋店 1階売り場デザイン②

0029:大丸 心斎橋店 一階エレベーター

0029:大丸 心斎橋店 二回より上のエレベーター

本館内部のメインとなる1階売り場です. 細やかに装飾されたアール・デコ調のデザインが天井から柱梁にまで施されています. その一方であまりの装飾の繊細さや、茶色トーンの色合いが相まって、その派手さがあまり強調されていないようにも感じられます. 御堂筋側玄関は八角形の模様が主でしたが、こちらでは六角形・六芒星の模様が多い印象でした.

そしてこれらの模様はエレベーターにも装飾されています. 恐らくこのような現在階の案内パネルは国内を探してもないのではないでしょうか. 一昔前の邦画のエレベーターシーンに出てきそうなレトロ感が漂います. 六芒星をメインもチーフとしたステンドグラスの時計も非常に美しいです. しかしこのデザインは1階のみ、2階以上になると案内パネルは円型のようなポップな柄になり、デザイン的な対比が見て取れます. これは何の意図があってこうなったのでしょう. 非常に気になるところです.
0029:大丸 心斎橋店 階段①

0029:大丸 心斎橋店 階段②

0029:大丸 心斎橋店 階段③

最後に階段です. 2方向からアクセス可能で中央の踊り場で交差するタイプですが、ここにもアール・デコのライトが埋め込まれていたり、踊り場には現在は使用不能な水飲み場?の跡があったりと、現在の階段にはないデザインが盛り込まれています. こういう装飾や石材の加工って非常に難しそうですが、立て替えの際にはどの程度再現されるのでしょうか、日本の施工技術が試されているような気がします.

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【追記】2015年12月30日をもって、大丸心斎橋本館は閉館しました. 今回私はオリジナルとして消え往くヴォーリズの最後の勇姿を見届けに再度訪問しました. 夜では見ることのできなかった細やかな彫刻、回顧展で明らかとなった当時の大丸の様子などを映した最後の記録です.

時刻は昼過ぎ、御堂筋には手持ちのスマホや一眼レフで本館を撮影する人で溢れかえっていました. 老若男女問わずという感じですが、高齢者が多かった印象です. 夜間の撮影では全く気づかなかったタイルの仕上げや、孔雀・鷲の彫刻など昼ならではのヴォーリズ建築の発見がありました. 外観は保存されるということで、できればそのままを維持してほしいと思います.
0029:大丸心斎橋店本館-ex 昼の外観

0029:大丸心斎橋店本館-ex 孔雀・鷲の彫刻

0029:大丸心斎橋店本館-ex 青銅製のモニュメント

0029:大丸心斎橋店本館-ex 窓付近だけ交互配置されたタイル

そして当日の1階売り場には、営業的には訪れない「2016(年)」と、「∞(無限)」のマークが合わさったモニュメントがありました. これが何を意味するのかは皆様のご想像にお任せしますが、天井に映し出された「Thank you so much」が何ともいえない気持ちにさせてくれます. ここの新しい発見として、御堂筋側玄関のステンドグラスや扉のデザインがやけに曲線美溢れる意匠で、「アール・ヌーヴォー」を彷彿をさせるものに感じました.
0029:大丸心斎橋店本館-ex 1階売り場(「2016年」と「∞」)

0029:大丸心斎橋店本館-ex 梁部分にデザインされた鷲の彫刻

0029:大丸心斎橋店本館-ex アール・ヌーヴォーのような曲線のある扉

0029:大丸心斎橋店本館-ex エスカレータ付近のステンドグラス

そして本館7階では『回顧展』が開催されていました. 大丸の成り立ちから、建造当時の心斎橋店の様子を映した写真がありましたが、中でも驚いたのはヴォーリズが当時設計プレゼンに用いた石膏模型や実際の図面が展示されているコトでした. 残念ながらスポット(1点だけ)撮影は控えろということで、本館に鏤められた細やかな装飾の図面などを目に焼き付けていました.

そこで写真を見ている際にあれ?と思ったものがあります. それは最後の写真、7階大食堂の柱の上部分の意匠がどこか日本の社寺に見られる『枓栱(ときょう)』に似ているな〜と感じました. もしかしたらヴォーリズも日本で建てる要素として、このような日本建築っぽさのある意匠に挑んでいたのかもしれません.

そんな発見もありながら、私は本館を後にしました. 最後の勇姿を見に訪れた人の中には、昔話を語るおばあさんや、店員さんに昔の大丸の写真を寄贈する若い男性もいたり、心斎橋の顔として愛されてきたんだな〜と感じさせてくれました. 今度の建替え後のお披露目はいつになるのでしょうか、また合える日まで気長に待ち続けるとしましょう. それでは今回の追記はここまでです〜 2015.12.30
0029:大丸心斎橋店本館-ex 本館回顧展

0029:大丸心斎橋店本館-ex 創業当時の「大丸呉服店」

0029:大丸心斎橋店本館-ex 昭和当時の写真など

0029:大丸心斎橋店本館-ex 昭和初期の御堂筋からの風景

0029:大丸心斎橋店本館-ex 『三つ斗組み』の意匠のある当時の7階大食堂



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