JPタワー(旧東京中央郵便局) - ARCHI'RECORDS(アーキレコーズ)- 建築紹介・建築探訪録        

JPタワー(旧東京中央郵便局)

           
0042:JPタワー メイン

0042 - JPタワー
竣工:2012年(再開発)/ 1933年(旧東京都中央郵便局)
設計:三菱地所設計+マーフィー・ヤーン(再開発)
   吉田鉄郎(旧東京都中央郵便局)
住所:東京都千代田区丸の内2-7-2
選定:DOCOMOMOセレクション(20選:No.5)
賞歴:2015年BCS賞

皆様どうも. 新年一発目ということで紹介した「JR東京駅舎」ですが、今回はその東京丸の内からもう一件、東京駅舎の南隣にあるJPタワーをご紹介します. 『JP』という名の通り、東京中央郵便局やゆうちょ銀行本社など、関東における郵政事業の基幹拠点であり、都内在住であればご存知の商業施設『KITTE(キッテ)』が入居するこのビルを訪問してきました.

東京駅の南側にあるこちらのタワーは新築ではなく、1933年に竣工された『旧東京中央郵便局』の建替え・再開発事業として生まれ変わったものです. 当時の旧郵便局を設計したのは、逓信省(ていしんしょう)出身の吉田鉄郎(よしだ てつろう)氏でした. 「佐賀県立博物館」でも少し説明した『逓信建築』ですが、吉田氏はその集団の中でも中心的な人物だったと称されています.
0042:JPタワー 低層部(旧郵便局)外観①

0042:JPタワー 低層部(旧郵便局)外観②

0042:JPタワー 低層部(旧郵便局)丸みのある「アール・デコ」調の建物角部分

0042:JPタワー 低層部(旧郵便局)現役の時計台

それでは東京駅からタワーの低層部を見てみましょう. 日本の欄間(らんま)や西洋の石工彫刻などの煌びやかな装飾を排したシンプルな外観として1900年初頭から注目された『モダニズム建築』として、ドイツの建築家ブルーノ・タウトなどから絶賛された旧郵便局は『DOCOMOMO JAPAN選定 日本におけるモダン・ムーブメントの建築』の最初の20選に登録される近代日本建築の代表作です.

白いレンガ張りの外観なので、東京駅など赤茶色の洋風スタイルが中心だった丸の内の中では、文字通り『異彩を放つ』建物でした. 建物の角を丸くしたのは当時のアール・デコの影響でしょうか、ピリっとしすぎていない感じがいいですね. 高さは31mありますが、5階建てしかないので(今は7階〜10階建て)、窓の大きさが普通の事務所の倍はあります. 窓枠の数をみてもその多さは圧倒的です. 時計台は今でも現役で、シンプルさの際立ったいいデザインだと思いました.
0042:JPタワー 東京駅からの全景

0042:JPタワー Vの字にくぼんだタワー棟ファサード

0042:JPタワー 東京駅から逆方向のタワー棟ファサード

0042:JPタワー 横にビッシリと付けられたキャットウォーク

タワー部分を見てみましょう. 再開発ビルの設計は日本代表する組織設計事務所の一角である三菱地所設計に加え、デザインアーキテクトとしてマーフィー・ヤーン事務所が担当しました. 建築家としての詳しくは解りませんが、ドイツ系アメリカ人であるヘルムート・ヤーン氏が中心となっており、このタワー以前には東京駅八重洲側にある「グラントウキョウ」のデザインアーキテクトを歴任しています.「マーフィー」に該当する人物もいるのでしょうか?

タワー部分の外壁をよく見ると、何やら全体的に『Vの字』を描いた斜めの線が確認できました. 始めはワイヤー部材と勘違いしましたが、ガラスの光の反射具合から、線を境界として『Vの字に窪んでいる』ということに気がつきました. このV字のわずかな窪みは何を意味しているのでしょうか? 東京駅側の方向以外の外観にはキャットウォークがビッシリと張り付いており『メインとなる顔(外観)の向き』がハッキリとした、最近では珍しいタイプの高層建築です.
0042:JPタワー 『KITTE』入口ロゴ

0042:JPタワー メインスペース

0042:JPタワー 三角形の巨大トップライト

0042:JPタワー 旧郵便局の駆体が残る(左部分)

0042:JPタワー 駆体の残るエリアの廊下

それでは低層棟にある商業施設『KITTE』の内部に突入です. クリスマス前ということで、メインの広場には特大のツリーが設置されていました. こちらのメインスペースは上が三角形型のトップライトで、5層分の店舗が吹抜けの周辺に配置された非常に広いアトリウム空間です. 実はこの場所は旧郵便局では中庭に位置していた場所です. 当時の中庭は美しい外観とは逆で、耐震補強の鉄骨で凄いことになっていたといいます.

そして商業スペースの一部分だけ、白い柱や梁が目立つエリアがあります. これは旧郵便局の既存駆体の一部が残されており、商業スペースとして再活用されています. 旧郵便局はその歴史的価値の観点から、建築家を中心とした全面保存活動が展開されていましたが、日本郵政は『外壁と柱2スパン分の駆体以外は取り壊す』という方針で建替えを進めました. 外観だけ保存よりも更に中途半端な決着で一部界隈では酷評の嵐ですが、完全消滅で良かったのかと思うとそれも寂しい気がします.
0042:JPタワー 木の意匠のある西側入口

0042:JPタワー 1階エレベーターホール

0042:JPタワー 意匠の違う2階エレベーターホール

1階壁面には木のパーツを組み合わせたいい感じのデザインでした. しかし2階に上がるとご覧の通り、使用されている素材が全く違います. 実はこちらの内装デザインを担当したのは建築家の隈研吾氏. 隈氏は各階ごとに柱・梁・エレベーター広場の壁に別々の素材を使っており、写真のように上の階から見下ろすと一目瞭然です. 間接照明も中央の広場との調和を意識した結果と語っています.

というわけで今回の紹介はここまでです. 今までもこのような外観保存タイプの再開発型高層建築は数多く見てますが、これほど保存に中途半端だったものもないなと、そんな点では面白い建築だと思います. 東京駅からは歩いて1分もありませんので、来た時にでもフラッと訪れてみてはいかがでしょうか. それでは今回はここまで〜


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