アストラムライン 新白島駅舎 - ARCHI'RECORDS(アーキレコーズ)- 建築紹介・建築探訪録        

アストラムライン 新白島駅舎

           
0043:新白島駅舎 メイン

0043 - アストラムライン 新白島駅舎
竣工:2015年
設計:シーラカンスアンドアソシエイツトウキョウ
住所:広島県広島市中区西白島町5-2

皆様どうも〜 三ヶ日も最後日、年末年始はいかがお過ごしだったでしょうか. 年末年始ということで話は変わりますが、年末29日に新建築の新刊が発売されました. 当ブログでは『エナジースケープ』でおなじみ三分一博志氏の直島作品が表紙を飾っています. が、それと同時に同刊にある一つの建築が目にとまりました. 見るとそれは既に私が取材した建築ではありませんか!

今が旬の新建築を先取りしていたというのは滅多にないことです. ならばこの際、これから見に行くであろう建築人の訪問予習ガイドとして書かなきゃ損! 乗るしかない、このビッグウェーブに!…というテンションで今回の記事は書き上げています. そういうわけで今回は、新刊に同じく掲載されているアストラムライン 新白島駅舎をご紹介します.

広島の県庁エリアから北西部のニュータウンを結ぶ新交通システム『アストラムライン』は、1994年のアジア競技大会の開催にあわせて開業した路線です. この路線にはJR山陽本線と交差する場所(現在の新白島駅)があったのですが、当時は様々な問題があり建設は見送られました. しかし地元の建設要望の声が強かったこともあり、乗り換えとなるJR新白島駅と一緒に、2015年3月にようやく開業となりました. 路線の開業から21年越しの新駅となります.
0043:新白島駅舎 外観

0043:新白島駅舎 工事中の連絡通路

0043:新白島駅舎 柱がランダムに配置された通路屋根

市電が通らないため、遠方からの方はJRもしくはバスで行くのが無難です. JRの場合は新幹線の跨線橋が駅との間にあるため、少し長い連絡通路を歩くことになります. そして連絡通路などから撮った外観が上の写真です. 国道54号線の中州には、半分埋まった白いリコーダーのようなユーモアな形態をした新白島駅舎がみえます. 実際に見ると「あっ、これは楽しそうだな」というワクワク感のある気持ちにさせてくれます.

新建築に掲載されている連絡通路は当時工事中でしたが、改札付近は完成していました. 屋根天井は明るみのある杉貼り仕上げ、屋根は屋上緑化となっており、屋根を支える柱は最低数かつランダムに配置されていました. 一本でも折れると崩壊しそうなギリギリ感がありますね. 屋根の構造は鉄骨ですが、こういう仕上げの裏が見れるのは工事中ならではだと思います.
0043:新白島駅舎 北入口

0043:新白島駅舎 改札口

0043:新白島駅舎 半円形に切り抜かれた東入口

0043:新白島駅舎 東入口から外観を見る

そして改札口にまでやってきました. 筒型シェルの表面には所々に円窓が設けられ、そのまま採光としての役割を担っています. 出入口はJRへの北出口と駅の南側へ向かう東出入口があり、東出入口は丸形にくり抜かれた穴がそのまま門(ゲート)となっていました. ですがチューブと東出口の門の境界は少し黒ずんでいます. 空気中のホコリが溜まって、そこに雨が流れたため黒くなったと推測しますが、ちゃんとメンテナンスして白さを維持してほしいですね〜

ここらで設計者の説明を. このプロポーザルを勝ち抜き、駅舎の設計を手掛けたのはシーラカンスアンドアソシエイツという4人組の建築家集団です. お魚のような名前ですが、その名前に劣らないユーモラスな学校建築を数々手掛け「千葉市立打瀬小学校」や「宮城県白桜高等学校」などで建築学会賞・作品選奨などの受賞歴のある実力集団です.

元々は『シーラカンス』という6人組で活動してましたが、1998年に『シーラカンスK&H』と当ユニットに分離・改組、更に内部でも東京事務所(CAt)と名古屋事務所(CAn)に分けられています. 今回担当したのは横浜国立大学教授でもある小嶋一浩(こじま かずひろ)氏と法政大学准教授でもある赤松佳珠子(あかまつ かずこ)氏の2人組ユニットである東京事務所(CAt)です. 近年の注目作として「宇土市立宇土小学校」があります.
0043:新白島駅舎 地下部のホームを見下ろす

0043:新白島駅舎 ワイヤーで吊り下げられた照明と採光窓

0043:新白島駅舎 排煙機械室への階段

0043:新白島駅舎 ホームドアからの眺め

それでは内部へと入っていきましょう. エスカレーターを降りていますが、この駅は厳密には地下駅ではありません. この駅は地下を刮削して設置した『半地下駅』というもので、北側はすぐに地上に出る路線となっています. 小島氏と赤松氏は駅から南側の広島市街と、北側の郊外ニュータウンを都市的スケールで捉え『都市から郊外への移行』を象徴するものとして、南から北に向かって筒の断面が大きくなるこの外観フォルムにしたと述べています. ちなみに駅の南端には排煙機械室へ続く扉と階段がありましたが、当然入れませんでした.

この駅舎で革新的なのは『土木(鉄道)と建築の融合リノベーション』という点です. 線路の管理会社は、後々この駅ができることを見越して、路線を駅が設置させやすいようにしていました. しかしいざ駅を建設する際に課題となったのは『既存の地下コンクリートに穴(駅のホームドア)を開けること』でした. それはつまり土圧に耐えられる構造に穴をあけるというものであり、それを上手く更新(リノベーション)しなければならないということでした. どのように対処したのかは省きますが、これを路線の運行を妨げることなくやってのけたのですから凄い土木技術です.

そしてその土木作業にシェル構造の建築を導入して竣工したこの駅舎. 今までは新築で考慮することの多かった駅舎建築ですが、外観を含めたリノベーションというのはあまり例のない珍しいケースです. ホームには細いワイヤーで吊り下げられた照明がありますが、晴れた日は必要がないほどの自然採光ができるそうで、当日曇りなのが悔やまれます. そういえばこんな建築どこかにあったな〜と思っていると…ありました!「0010:金沢海みらい図書館」とかまさにこの駅舎バージョン、加えて設計は『シーラカンスK&H』です. 改組しても外観スタンスはお互い様みたいです、だがそこがいい!

というわけで今回は今月号の新建築でまさにホットな広島の駅舎建築をご紹介しました. 土木が優位になりやすい駅舎建築ですが、このようなやり方でコラボレートするのも面白いなと感心させられます. 広島の中心部からもそれほど遠くはないので、気になった人はちょっくらよってみてはいかがでしょうか. というわけで今回はここまで〜


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