



前回の鎌倉館から別館へは、八幡宮の西側を走る県道21号線を北に約5分ほど歩くと着きます. 歩き始めは道先に美術館らしい建物が見えないため少々不安になりますが、道中には写真のような石造りの案内板があるので迷うことなく着けると思います. 坂道を上がって少ししたところに現れる正門につくと、白の印象的だった鎌倉館とは対称的なグレーで重厚感に満ちた別館が姿を現します.
設計を手掛けたのは建築家 大高正人
(おおたか まさと)氏です. 多摩ニュータウンや新宿副都心・みなとみらい21など高度成長期の様々な都市計画に携わった都市計画家としても知られ、
「坂出人工土地」や「千葉県立中央図書館」、「広島県基町高層アパート」などの著名な近代建築を手掛けた建築家としても知られています.
建物としては奥手にある横長の展示室のボリューム
(2階が展示室 1階は恐らく事務室・収蔵庫)があり、その中央部分からエントランス部分が手前にグアッと張り出した形態をしています. トップ写真からもわかるように、左右から片持ちで張り出した様子は、さながら戦闘ロボのロケットパンチのようなダイナミックさを感じさせます. 加えてロビーの仕切りはガラスのため、重厚感とは裏腹に軽やかさのある張り出しが表現されています.




南側の庭園から建物をみています. 庭園には数点の彫刻作品が展示されおり、野外作品は撮影自由なようでした. 展示室となる部分の天井部分は、何やら波型のウネウネとした屋根が確認できます. 大高氏はこの鎌倉の風土を強く意識し、とりわけ屋根の造形にこだわりをもっていたといわれています. 連続する波形屋根の隙間にはガラス?がはめ込まれていたので、トップライトとして機能しているのではと考えてました.
実際は違いましたが…外壁についても説明しようと思います. 鈍色に光る重厚な外壁は「打ち込みタイル」と呼ばれるタイル貼り工法で取り付けられています. 通常タイル貼りはコンクリートに下地材を上塗りして貼付けますが、経年でタイルが剥がれ落ちて落下事故に繋がるのが問題視されました. そこで開発されたのがこの工法、簡潔にいうと『上から貼付けて落ちるのなら、セットでつくってしまおう』ということで、コンクリートを流し込む前段階で予めタイルを型枠の中に入れて固定、駆体とタイルと一体的につくるというものです.
余談ですが、この工法を開発したのは大高氏の師でもあり、コルビュジエの『三弟子』のひとりである前川國男
(まえかわ くにお)氏. この工法は他にも「東京都立美術館」や「弘前市立博物館」「熊本県立美術館」などの全国の前川建築でみることができます. タイルの詳しい解説については「トビカン 見どころマップ」(
URL)で図解付きで掲載されています.



それでは館内へ入っていきましょう. カメラ片手に入ったものの「2階は全て展示室ですので撮影禁止で…」といわれてしまったので、ここではロビー部分と階段のみを掲載しています. ガラス向こう側の庭園を、ソファーからのんびりできるこのロビーの感じが非常にイイと思います. エントランスで説明した張り出しの部分は休憩スペースで、過去の展覧会ポスターなどが貼付けられていました.
階段を上がった先にある展示室はこれだけの建物規模ながらもワンルームの大空間で、外観で述べた波形の連続屋根が天井にも反映されています. 壁面・天井面も外壁と同じグレートーンなため内部は非常に暗く、白さのあった鎌倉館とは清清しいほどに対称的です. 特にエントランスの張り出し部は、内部柱が異様に強調されて、さながら神殿のような列柱空間が今でも印象として残っています.
というわけで今回はここまでとなります. ロケーションにはある程度差異はありながらも、ここまで鎌倉館と建物の印象が間逆になっているのはある意味驚きでした. 鎌倉館が閉鎖後はこの別館と葉山館の2館で展示を続けることになりますが、企画展が別館にシフトするのか、それとも鎌倉での開催は当分止めるのか、そのあたりの情報は未定です. 個人的にはあの展示空間は、是非ご自身の目で確かめてみることをお奨めします. それでは今回はここまでで〜
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