南海電鉄 浜寺公園駅舎 - ARCHI'RECORDS(アーキレコーズ)- 建築紹介・建築探訪録        

南海電鉄 浜寺公園駅舎

           
0052:南海 浜寺公園駅舎 メイン

0052 - 南海電鉄 浜寺公園駅舎
竣工:1907年
設計:辰野金吾+片岡安
住所:大阪府堺市西区浜寺公園2-188
特記:2016年1月 営業終了

皆様どうも. 今回は大阪の堺市から、とあるレトロ建築のご紹介です. 実は本来ならば別の記事を書く予定でしたが、とあるニュースを見て急遽変更しました. それは、今月27日で南海電気鉄道(南海) 浜寺公園駅舎が通常業務を終了するというものでした.

浜寺公園駅舎といえば「JR東京駅舎」などでも紹介した建築家 辰野金吾氏の設計にして、現存で改札業務を行う日本最古の洋風駅舎として、関西では知名度の高い駅として親しまれてきました. 今回はそんな最後の日を迎えることとなった駅舎の勇姿を、レポートを交えながら紹介していこうと思います. それではどうぞ〜
0052:南海 浜寺公園駅舎 1・2番線ホームから駅舎をみる

0052:南海 浜寺公園駅舎 ハーフティンバー様式でつくられたホーム壁面

0052:南海 浜寺公園駅舎 ホーム待合室

0052:南海 浜寺公園駅舎 待合室内部・天井

0052:南海 浜寺公園駅舎 3・4番線が一体となった変則ホーム(左フェンスは5番線跡)

まずはホームから降りて撮影した駅構内の写真を掲載しています. 駅には普通電車となんば方面の準急しか止まらないため、種別には注意しましょう. この駅は1897年の南海鉄道堺〜佐野駅間の開業に伴う中間駅『浜寺駅』として開業しました. 木造平屋建てとして残る現在の駅舎は、開業から10年後の1907年にできた2代目駅舎です. 駅舎側ホームからは木造トラスの屋根や、木造駆体を半分残して壁をつくる『ハーフティンバー様式』といわれる西洋デザインが見物です.

和歌山側の待合室も辰野氏の設計とされ、円型や正方形などの幾何学意匠が多用されています. 天井は十字格子状で、所々にスポットライトの埋め込まれた面白い仕様になっていました. 浜寺公園駅のホーム構造は非常に特殊で、特になんば側は後側は3番線、前側を線路を引き込んで4番線とした「切り欠きホーム」となっています. 加えて4番線の反対側には、折り返し専用となる『5番線』が存在していました. このホームの秘密は後ほどご説明しましょう.
0052:南海 浜寺公園駅舎 駅舎全景

0052:南海 浜寺公園駅舎 駅舎正面から

0052:南海 浜寺公園駅舎 営業終了の案内

0052:南海 浜寺公園駅舎 赤色が冱えるトタン屋根

0052:南海 浜寺公園駅舎 駅舎上部の通気口のデザイン

0052:南海 浜寺公園駅舎 閉鎖されたステーションギャラリー

0052:南海 浜寺公園駅舎 造形の美しい列柱

駅舎改札をでて駅前広場へとでました. 最終営業日だけあって広場にはカメラを持った多くの人だかりがあり、テレビ局の車もきていました. 駅舎そのものは木造平屋建てですが、壁周りの庇が大きく張り出しているため、2階建てにも見えます. 水色に塗られた木造駆体は、所々が待合室と同じ円型だったり、通風口の部分は歯車のギア状だったりと、とても明治時代に建てられたとは思えないデザインに驚かされました.

駅舎設計を担当したのは辰野金吾氏と片岡安氏のよる『辰野片岡事務所』で、辰野氏が初めて設計した駅舎建築(東京駅は7年後の1914年竣工)でもあり、「日本銀行京都支店」や「第一銀行神戸支店」などの銀行建築をメインにしていた時期としても珍しい駅舎作品でもあります. 辰野氏の木造建築は他に「奈良ホテル」「南天苑」「武雄温泉本館」がありますが、木造駅舎として現存するのはこれが唯一ということもあり、1998年には登録有形文化財に登録されました.

水色と白色という明るいテイストながらも、屋根は赤色の目立つトタン屋根で葺かれているため、屋根が非常に目立ちます. 屋根部分には『ドーマー』と呼ばれる切妻状の飛び出し屋根が見受けられます. 妻入りのアーケードを支える列柱は非常に造形美に溢れたもので、辰野氏の師でもあったジョサイア・コンドル設計の「鹿鳴館」の2階柱と同じ様式だといわれています. 列柱は所々塗装が剥げていますが、この雰囲気が一層レトロ感を引き立てているように感じました.
0052:南海 浜寺公園駅舎 駅手前にある石碑

0052:南海 浜寺公園駅舎 木造の旧改札

0052:南海 浜寺公園駅舎 今後使用される仮設駅舎

それでは何故、急行すら停車しない中間駅にこのようなレトロ建築が建てられたのでしょうか. それはこの浜寺公園の歴史が深く関わっています. 臨海の工業地帯が埋め立てられる以前の浜寺公園は、与謝野鉄幹や夏目漱石などの俳人によって和歌に詠まれるほどの景勝地として知られ、明治以降は「関東の湘南 関西の浜寺」「東洋一の海水浴場」として、夏には年間100万人が訪問する一大リゾート地として栄えました.

そのリゾート地の影響もあって、浜寺は芦屋・帝塚山などと並ぶ高級住宅街として発展し、南海沿線でも頭一つ飛び抜けた重要なエリアであったといわれています. この駅舎はその最盛を象徴するものとして、辰野氏に設計を依頼したのでしょう. 先述のホーム構造もその名残で、駅専用の折り返しホーム(5番線)があったことから、当時はなんば〜浜寺公園間の電車が設定されており、中間駅としても異例のVIP待遇だったといわれています. リゾート経済ってすごいですね〜

そんな歴史のある駅舎も、南海本線の高架事業によってその役目を終えます. しかし駅舎は取り壊されず、新駅の正面に移築されることとなっており、今後も浜寺公園の顔として残っていきます. 駅前にはロータリーが整備され、駅の南側には新駅建設までの仮説駅舎も出来上がっていました. ちなみに新駅の設計は『アプル総合計画事務所』が担当します.
0052:南海 浜寺公園駅舎 天井の高い改札口

0052:南海 浜寺公園駅舎 投影される列柱

0052:南海 浜寺公園駅舎 改札口の天井

0052:南海 浜寺公園駅舎 近畿の駅百選認定証

0052:南海 浜寺公園駅舎 改札から駅前広場をみる

2階建ての建物高がありながらも平屋建てであるため、改札口の天井は非常に高くなっていました. 天井は待合室と同じ十字格子ながらも、蛍光灯が吊られて配置している感じが昔の雰囲気っぽくて好きです. 太陽が当たると、写真のようにアーケードの列柱の影が改札に入り込み、映画のシーンにありそうなノスタルジックな風景が撮れて感激でした. 駅業務が最後となるため、改札のあるこの光景を撮ることができないのが残念です.

というわけで今回はここまでとなります. 駅舎は残されるという今後の見通しですが、肝心な高架化の完成は『2028年』とずいぶん先の開業となります. 築109年ということもあり、所々痛んだ部位もあるようなので、そこをどう改修していくのか、個人的にはそんな部分も気になるところではあります. じつは南海にはもう一つレトロ駅舎が存在し、それがこの駅のお隣にある「南海 諏訪ノ森駅舎」ですが、そちらも機会があれば紹介したいと思います. ではでは今回はここまでで〜


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