2016/02/01



道具館の敷地周辺には森林が生い茂り、お屋敷の風格のある佇まいをみせる正門がお出迎えしてくれます. 正門を入ると平屋建ての新館がすぐ目の前に現れます. 総瓦葺きの屋根に、明るい木の軒裏が奥までのびた気持ちの良い縁側があり、南側に広がる庭園を望むことができます.
本館は日本の伝統工法を手がける大工職人の技能を支える大工道具を保存・展示する企業博物館です. スーパーゼネコンの1社である竹中工務店(本社:大阪市本町)が運営、建物の設計も手がけました. 道具館自体の歴史は1984年から始まり、現在の場所から南西にある中山手にあった旧館の老朽化・展示スペースの拡張に伴って、現代の新館に移転されました.
ところでなぜ大阪本町の「御堂ビル」に本社をおく竹中の博物館が神戸にあるのでしょう. 竹中工務店は織田信長の家臣 竹中正高によって尾張国(現在の愛知県)で1610年に創業. 明治時代後期に近畿に進出し、その足がかりの地として選んだのが関西の貿易の中心であり、造船業の栄え始めの時期にあった神戸でした. 現在新館がある場所は神戸進出時代に本社があった場所で、その後は竹中氏の邸宅地となる竹中ゆかりの土地というわけです.




それでは内部へと入っていきます. 入館料は大人500円. 建物自体は平屋建てですが、展示室のほとんどは地盤を掘り下げてつくられた地下スペースに埋め込まれた『地下掘削型』の博物館です. 六甲山の麓にある緑豊かな景観を損なわないように配慮されたもので、「奈良市写真美術館」や「平等院ミュージアム鳳翔館」でも同様の地下の掘削が確認できます.
受付すぐのスペースは企画展スペースとなっています(今回は撮影禁止のため断念). 大工道具館で面白いのは展示物だけではなく、扉や天井・壁の仕上げを現役の棟梁や左官職人よる工芸技法で仕上げているところでしょう. 例えば本館入口の自動扉は『名栗(なぐり)』と呼ばれる、木材に削り痕を残す古来の技法で仕上げられていたり、企画展の天井部分は『合掌垂木』という垂木のみで構造を自立させる技法を現役の大工棟梁が手がけていたりと、建物の所々で日本の職人技を体感できます.
建物中央には、地上から地下2階までがつながる中庭が設けられており、常設の展示室へはこの周りにある階段を下りていきます. 中庭の床には、淡路島の伝統窯である『達磨(だるま)窯』を復活させて焼かれた『達磨敷瓦』が敷かれており、焼き度合いの違う瓦が太陽の光によって様々な表情をみせていました. 個人的には階段の側部に、木の中心を切り取った『芯材』をわざわざ一個一個取り付けているのを見て「いや〜凝ってるな〜」と感心させられました.



階段を下りて地下1階の展示室に来ました. 大工道具の展示に関しては全国有数のバラエティで、昔の社寺仏閣で実際に使われた大工道具を復元したものを展示していたり、木材の表面を削る『鉋(かんな)』を削ったものを実際に触ることができたりと、現在に至るまでの日本の大工の歴史が集約されていると言っても過言ではないほどの展示物があります.
中でも驚くのは、写真にもある『唐招提寺金堂の組物を再現した実寸模型』です. さすがに柱一本では持ちこたえれなかったのか、天井からも一部固定されていますが、展示物のスケールのデカさに圧倒されます. 部位に関しても詳細に書かれているので、日本建築の構造を学ぶのにも非常に最適な場所となっています.



地下2階へとやってまいりました. 地下2階へと降りる階段スペースにある壁も、現役の左官職人によって削出しが施された土壁で、古い技法ながらも繊細なコテさばきで美しく仕上げられています. この階には実寸大の茶室、日本の名工による大工道具の展示、木材に関する学習スペース等々…いろいろありすぎてお腹いっぱいです. コンクリートや鉄骨主流の現代日本で、今や少なくなった伝統工法の技術がこのような形で残され、伝えられていることに感謝です,
というわけで今回はここまでです. 大工といわれると少々古臭くそして堅いイメージのつきやすい職業ですが、道具や職人技法に実際に触れると「すごいなこれは!」と感銘を受けるほど魅力的な技能の世界であることに気づかされます. 古来の日本建築は、こういう職人の技の積み重ねによって生まれてきたんですね〜 皆さんも神戸にお越しの際はフラッと来て、大工の世界に触れてみるのもいいかもしれませんよ. それでは今回はここまで〜
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