京都国立近代美術館 - ARCHI'RECORDS(アーキレコーズ)- 建築紹介・建築探訪録        

京都国立近代美術館

           
0054:京都国立近代美術館 メイン

0054 - 京都国立近代美術館
竣工:1986年
設計:槇文彦
住所:京都府京都市左京区岡崎円勝寺町26-1
賞歴:1992年公共建築賞(文化部門)
   1988年BCS賞

皆さんどうも. 今回は日本の誇る文化都市京都から、今なお活躍し続ける建築家が手がけた近代建築のご紹介です. 場所は京都市の東端にある左京区岡崎公園. 明治神宮をメインとして「京都市美術館」「京都みやこめっせ」などが建つする東山有数の文化・産業拠点としても有名で、近年では「ロームシアター京都(旧 京都会館)」が開館しました. そんなエリアの南端にある京都国立近代美術館(MoMAK)が今回紹介する建築です.
0054:京都国立近代美術館 大鳥居と美術館

0054:京都国立近代美術館 外観正面

0054:京都国立近代美術館 琵琶湖疏水側から①

0054:京都国立近代美術館 琵琶湖疏水側から②

岡崎公園への最寄りは市営地下鉄の東山駅、駅からは少し離れているので、近隣からの移動の場合はバスの方が便利な場合があります. 今でこそ大鳥居が目印の平安神宮・岡崎公園ですが、この一帯が栄え出したのは1895年の『内国勧業博覧会』 以降と極めて最近の話で、幕末は空き地が広がっていたといわれています.

岡崎公園の南端に流れる琵琶湖疏水(写真3枚目)に沿って建設された近代美術館は、日本で3番目に建設された国立美術館として1963年に開館しました. 当時は『京都分館』という分館の位置付けで、建物も『京都市勧業館』(先代の勧業館で、みやこめっせとは別物)の別館を改装したものでした. それゆえ美術活動を営む上では不備な部分が多かったため、1986年に新館を新しく建築しました. 従ってこの建物は2代目になります.
0054:京都国立近代美術館 北側外観ディティール①

0054:京都国立近代美術館 北側外観ディティール②

0054:京都国立近代美術館 ユニークな車止め

0054:京都国立近代美術館 正面玄関

0054:京都国立近代美術館 表札

本館は戦後モダニズム建築の重鎮として知られ、日本人として2人目のプリツカー賞を受賞した有名建築家 槇文彦(まき ふみひこ)氏の作品です. 東京大学で丹下健三氏の研究室に属した後にアメリカに留学、一時期は米国最大の組織設計であるSOMにも勤め、1965年に『槇総合計画事務所』を設立します. 「名古屋大学豊田講堂」「ヒルサイドテラス」「幕張メッセ」「風の丘葬斎場」など日本各地で多彩な代表作を残しています.

外観は壁面を花崗岩のPC板、コーナーをガラスの階段スペースであしらっています. 同様の外壁を模した作品に東京の「スパイラル」や「TEPIA」がありますが、その後の作品となる美術館の見た目は、シンメトリー(左右対称)が故に綺麗なほど整ってみえます. 注目したのは建物頭頂にある妻入り屋根で、これがないと美術館は『ハコ型』の印象が強まるように感じます. 道路向かいにある京都市美術館の正面に揃えたのか、景観配慮かはわかりませんが、日本建築のである屋根のイメージを入れ込むことで『ただのハコ型では終わらせない』という気概を感じさせます.
0054:京都国立近代美術館 エントランススペース

0054:京都国立近代美術館 独特な開口窓のあるカフェ

0054:京都国立近代美術館 3階展示室へ向かう階段

0054:京都国立近代美術館 階段上部にあるトップライト

0054:京都国立近代美術館 幾何学意匠や渡り廊下のあるショップ

0054:京都国立近代美術館 1階左奥部のフリースペース

それでは建物内に入っていきます. メインとなる企画展示室は3階にあり、建物中央の吹抜けの階段を上っていくことになります(トップ絵の階段). 外観も含めてシンプルな幾何学模様が目立ちますが、エントランス南にあるカフェスペースの開口部は、写真のようにくり抜かれていて「こういう造形的なデザインもあるのか」と意外に思ったりもしました. これは何をモチーフにしているのでしょうか?

中央の吹き抜け天井はトップライトであるため、1階から屋上までが吹き抜けとなった大空間であることが伺えます. エントランスから見ると柱のように見える2本のタテ棒は、側部にレールがあることから災害時にシャッターを下ろす仕切りだと思います. 屋上までグーンと上まで伸びる吹き抜けや、列柱にも見える2本の仕切りを見ていると、神殿や教会のような西洋建築のような雰囲気を感じます.

吹き抜けの左奥のスペースは、建物南側の疎水や庭を観覧できる休憩スペースになっていて、外向きに椅子が並べられていました. 照明が全くついてないので、南側の太陽から反射した庭の木々が室内を緑に照らしていて、とても気持ちの良さそうな空間になっていました.
0054:京都国立近代美術館 階段室

0054:京都国立近代美術館 4階の休憩スペース

0054:京都国立近代美術館 4階から東山の山々を眺める

0054:京都国立近代美術館 手前には大鳥居と京都市美術館

展示室はもちろん撮影禁止なのでザザッと解説. 3階の企画展示室は吹き抜けを中央としてグルッと周回する『ロの字型』の動線となっています. 展示室自体の工夫はあまり見受けられませんが、本館外壁よりも目地間隔を広く開けた『通し目地』の天井が印象的でした.

企画展示室を見た後は、脇の階段から4階の常設展示室へと上がることができます. 階段室のガラス枠は正方形と長方形を組み合わせた美しいグリッドで、最高階の踊り場には不思議なオブジェも展示されていました. 4階展示室の手前は写真のように休憩スペースとなっていて、今での企画展の図録や他の美術館のポスターがビッシリと貼られています.

そして何よりもすごいのは、平安神宮の大鳥居を目前に見ることのできるこの大窓です. 大鳥居に限らず、その奥には京都の東に並ぶ『東山連峰』を、天気が良ければ北は比叡山、南は稲荷山まで見通すことのできる絶景パノラマスポットにもなっていました. 高層建造物のあまりない京都だからこそできる『市街地から山へのパノラマビュー』を槇氏が意図的に狙ったなら彼は天才だと思います. 「山をみるっていいな〜」と感慨にふけまくってました.

というわけで今回はここまでです. 構成している要素は正方形や長方形といった幾何学模様なのですが、大鳥居の脇にありながらもその雰囲気を感じさせないなど、土地柄故に景観に厳格な意識をもつ京都に近代建築を建てる当時の建築のあり方をみることができ、この美術館には考えさせられるものが多いな〜と思います. 岡崎公園に建つ近代美術館に是非一度、それでは今回はここまで〜

2016.6.15. 外観写真全般を2016年夏撮影分に更新


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