2016/02/06


最寄駅となるJR京葉線葛西臨海公園駅は、ディズニーランドで有名な舞浜駅と「木材会館」の最寄である新木場駅の間にあります. 優等列車は通過するので、間違っても快速に乗ってしまわないように注意が必要です. 葛西臨海公園は総面積約81haという都内有数の規模を誇る公園で、湾岸部には2つの人工干潟が配備された『葛西海浜公園』が隣接しています. 駅を降りてすぐの公園入り口からのびる、海岸線へと向かうメインロードの先にレストハウスは見えます.
野鳥類が多く生息することから、環境学習の拠点施設としても認知されていますが、ここまでに至る経緯は非常に多難なものです. 同区湾岸にあった『葛西浦』は海草や貝類が多く生息する自然環境の豊かな場所でした. しかし高度成長期の江戸川沿いからの工場排水によって、自然環境は一度大きく破壊されてしまいます. その反省も踏まえて整備された公園は現在「都市景観100選」「日本の渚百選」にも選定される都内有数の景観地・環境地区として回復しました.



メインロードを通り抜けて、公園内の展望施設『クリスタルビュー』の手前まで来ました. この建物を見て、一言で言い表すならば「美しい!」と私は迷わず答えると思います. とにかく美しい! あまりの美しさに私は「すげ〜」としか口にできないほどに呆気にとられていたのを今でも覚えています. 美しいしか言えてない…
直方体に覆われたガラスファサードからはRCの建物スラブや躯体がハッキリ見え、一部のガラスは空と同化していると錯覚させるほどにクリアーです. メインロードから渚へと潜る道の上側の躯体は、文字通りの『門(ゲート)』のように綺麗に象られているのが非常に印象的です. 円や三角形などが一切除された純粋な幾何学、純粋なキューブ形態、加えてこの素材による美しさ、朝9時曇り空の下でただ一人テンション上がりまくりでした.






美しさに酔いしれることとなったファーストインプレッションの余韻も冷めたところで、建物外周をグルッと見ていきましょう. このレストハウスは幅75m、奥行き7m、高さ11mという直方体のボリュームで、地下1階を含む3層構造となった展望施設として1995年に竣工しました. 『展望施設』という位置づけながらもタワー施設としては設計せず、臨海公園の自然環境に調和させるように建物高を低くし、ガラスを用いて目立たなくさせるという部分は非常に斬新です.
建物の設計を手掛けたのは「京都国立博物館 平成知新館」でも紹介した建築家 谷口吉生氏です. 『純粋モダニズムの建築家』としても評価の高い谷口氏が手がけたこのレストハウスは、ディティールを極限まで追い求めたが故に到達したガラス建築の極致の一つでなないかと思います. 谷口氏によるガラスの箱タイプの建築はもう一つ、2012年に竣工した「加賀片山津温泉 総湯」があります.





建物館内へと入っていきましょう. 展望ルームへはエレベーターなどが設置されたコア部分の周囲を巡る階段を上って2階へと上がっていく必要があります. 階段や廊下の手すり素材はガラスを使用し、外観では気づかなかった天井部分も一部トップライトにしてガラスを使用しているという、徹底的に透明感を追求しているように感じます.
2階に到着すると、そこには建物の東西を結ぶ長〜い廊下があります. 廊下からはファサード越しに東京湾を一望することができ、海の展望に特化した美しい展望台としての魅力に触れ合うことができました. さて、空に溶け込むほどに綺麗に見えるガラスは、幅わずか5cmほどの細いFR鋼(耐火皮膜が不要な鉄骨)でできたサッシュを十字に組み合わせて、幅約1mのガラスをはめ込んで造成されています.
このような建築の設計で大きな壁となるのは強度対策です. 一面ガラスなので強い風圧に耐えなければ危ない、地震に対する水平力・ブレースはどのようにつくのるかなど、構造設計者泣かせの非常に難しいもので、実際に地震力は、コア部分から鉄骨ブレースを連結させていることで保たせています. 即ちこのレストハウスは、構造技術者の計り知れない苦労や、施工業者の職人技による建築技術の結晶でもあるのです. どの建築でもこのような部分はつきまとうので、この建物の技術だけを一概に特別視するものではありません. あしからず…





太陽が現れるとカーテンウォールのサッシュが廊下側に投影され、メリハリのある面白い影が映し出されるのが実に見事です. 2階廊下から東に渡ると、館内のメインとなる展望ルームに到着します. 上部に目立つ円筒状の空調設備は、ファサードにも数少ない円形として現れています(トップ絵参照). 外を見ると手前にガラスドームが見えてきますが、あれも谷口氏設計の「葛西臨海水族園」です. そしてさらに奥にはディズニーランドと、そのオフィシャルホテルが並んで建っています. 天井には布状のものが吊られているのですが、帆のモチーフでしょうか?
スロープを降りていくと、葛西臨海公園の敷地に生息する野鳥に関する情報が記載されたパネルが設置されています. しかしこれもガラス製という徹底ぶりには驚かされます. 地下には防災センターやレストランが配備されており、レジャー施設としても防災拠点としても活動できるようになっていました. 学習拠点・レジャー拠点・防災拠点と…もう何でもアリ感がすごいですが、利活用されているだけありがたいと考えるべきでしょう.
というわけで今回はここまでです. こんな超立派な施設ですが、利用目的としては『公園の休憩場所』なため、入館料金が一切必要ないというのには驚きです. 今度はしっかりと晴れた時、季節がよければ夜の時にでもまた訪れてみたいと思います. しつこいですが「美しい!」これがこの谷口建築における魅力そのものです. 興味がある方は是非訪れてみてください. それでは今回はここまで〜
- 関連記事
-
- 渋谷区立松濤美術館
- 葛西臨海水族園
- 葛西臨海公園展望広場レストハウス
- 木材会館
- NBF大崎ビル(旧ソニーシティ大崎)
コメント