2016/02/23



目的のアイビースクエアの道中には、倉敷の代名詞でもある美しい美観地区があります. 倉敷川を挟んで両脇に並ぶ町並みや美しい緑のランドスケープが冴える独特の風情は、観光地としての倉敷を象徴するものです. かつての倉敷は『天領』と呼ばれる江戸幕府の直轄領で、備中国屈指の物資集積地として栄えました. 白漆塗りの町屋や土蔵の残る町並みは、当時の幕府領としての権威・繁栄によって形成されました.
美観地区エリアの町並みを歩きながら南東の方角へと進むと、それまでの和風の多かった町並みに突如として煉瓦(れんが)造りの建物が姿を現します. 軒の低い町並みに慣れてしまうと、この建物の大きさにおおっとなりますが、こちらはアイビースクエアの建物の一部で、さらに少し歩くと西門が見えてきます. 敷地内の入場は無料なので、早速入場しましょう.




ぶらぶらとアイビースクエアの中を歩いています. 煉瓦造りの建物ばかりかと思っていたら、写真のような壁面緑化がなされている建物があったりと、美観地区の町並みの近隣にあるとは思えないレトロモダンな雰囲気のある場所です.
倉敷アイビースクエアはホテル業務を中心とした複合交流施設として1974年に開業しました. 敷地内にはホテル以外にもレストランやオルゴール専門の博物館、カルチャー教室など様々な施設が備わっています. この施設の特徴は敷地内にある煉瓦造りの建物群です. これらの建物は元々この地にあった繊維メーカー『倉敷紡績(クラボウ)』の旧倉敷工場をホテルにコンバージョン(用途変換)をしてできたもので、経済産業省の『近代化産業遺産』にも認定されています.
施設自体が完成したのは1889年なので、100年以上も前に竣工した煉瓦造りの工場が現役で活用されているのは全国でも数少ないということです. 工場だった名残は現在でも残っており「大原美術館 児島虎次郎記念館」の扉の上部分には漢字の「二」と3つの丸が描かれたマーク、これは倉敷紡績の社章である『二三のマーク』と呼ばれるもので、当時の痕跡を色濃く残すものです. 工場は撤退しましたが、アイビースクエア自体は倉敷紡績の子会社として運営されています.




蔦のある煉瓦建物内を進むと、敷地内の中心でもある中庭広場へと到着です. 蔦の這われた赤煉瓦やアーケードに通づる連続アーチの光景を見ると、どこか西洋的な広場に見えてしまいますが、床面を見ると瓦を埋め込んでデザインをしていたりと日本的な要素も取り入れられてた和洋折衷な面白意匠も見所です. ちなみにこの中庭はホテル改築後に屋根などを撤去してできたもので、連続アーチの壁面もそれに伴って増築されたものです. 施設のメインスペースでもあるこの蔦(ivy:アイビー)のある中庭広場(square:スクエア)は、施設の名前の由来にもなっています.
アーケード部分の天井からは工場の遺構である『ノコギリ屋根』をハッキリと確認できます. 中庭広場から南東にある小道を通ると、ホテルとしてのアイビースクエアの玄関や駐車場、そして巨大な煉瓦造のアーチが印象的な正門(トップ絵の写真)をみることができます. 建物の至る所に這われた蔦は、工場の内部環境の温度調節にベストだったがために頻りにに植えられていたとのことです.
この施設の設計を手掛けたのは倉敷出身の建築家 浦辺鎮太郎氏、そして浦辺氏が主宰する『浦辺建築事務所(後の浦辺設計)』でした. 浦辺氏については「日本工芸館」で一度ご紹介しましたが、浦辺建築の本場はこの倉敷. その一つであるアイビースクエアは竣工と同年に日本建築学会賞を受賞したことからも、彼の代表作と称しても過言ではありません. またコンバージョン建築として学会賞を受賞した建築もこれが初で、ストック活用の先駆者となる建築だといえます.



メインの施設内のほとんどはホテルと宴会スペースなため、内部を観覧できる場所は以外と限られています. 工場のコンバージョンに注視していたせいか、写真を見返すと天井写真ばかりでした. といっても天井は各施設で全く異なっていて、連続窓のようになったタイプ(内観写真一枚目)もあれば、格式高そうなハイサイドライトのようなタイプ(内観写真三枚目)もあったりと、これはこれで面白い見所だなと思います. 他のタイプも探してみるのもアリかもしれませんね.
というわけで今回はここまでとなります. 倉敷には美観地区に負けず劣らずの浦辺建築がまだまだ存在します. そんな建築や町並みを楽しみながら、夜はこのアイビースクエアで一晩を過ごすのもいいかもしれません. 一番安いシングルで素泊り1万円前後なので、ちょっと贅沢な旅行気分で一度どうでしょうか. それでは今回はここまで〜
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