



倉敷の美観地区は町並みもさることながら空を阻害するものがほとんどない、徹底された周辺の建物規制によって形成された広域の景観ランドスケープも魅力的です. そんな周辺環境や時代背景もあって、美観地区真西に建つ国際ホテルは地上5階建ての中層建築と、外観全景
(メイン写真)を見てもわかるように、現代のホテルと比較すれば非常にコンパクトな印象を受けます. 高層建物も少ない時代なので、これが60年代のホテルのスタンダードと考えるべきかもしれません.
ホテル外壁は白のモルタル壁とRC打ち放しの庇が交互に重なった横ストライプ模様の外観となっています. この急勾配の庇ですが、浦辺建築の初期にある特徴的な外観意匠で
「日本工芸館」や「大原美術館分館」の道路境界塀にも見受けられたもので、このホテルはその系譜の後の作品になります. 城郭の庇のような佇まいや、ホテル各室の小窓の印象も相まって、少々恐たい外観ながらも、どこか風土感のある外観に仕上がっています.
ホテルの玄関は、ホテルのボリュームの一部を削ぎ落とした『コの字型』の窪みとなる部分を平屋建てにしています. 玄関の外壁には玉石・木・御影石・RC打ち放しなど多種にわたる素材がバランスよく用いられており、印象深い外壁になっていました.




それでは館内に入っていきましょう. 受付担当に相談して「ロビーだけならOK」ということだったので、撮影写真を掲載しています. ロビー空間のメインカラーは白で、随所にアンティーク家具や工芸品が散りばめられた、なんとも格式高そうなロビー空間です. あまりの高級さに「本当に居てもいいのだろうか…」とも思いながらカメラを握ってました.
このホテルを創設したのは「大原美術館」でも説明した倉敷の名家 大原家の大原総一郎
(おおはら そういちろう)氏です. 浦辺氏が独立前に所属していた倉敷レイヨン
(現クラレ)の社長でもあり、浦辺設計創設の立役者でもあります. 2013年に実施された増築工事も浦辺設計が担当しており、2人亡き今でもこれらの縁は後世にも引き続いています.
このロビーで注目してもらいたい点は、中央スペースの吹き抜けに展示された2枚の『版画』です. これは日本のみならず世界的巨匠とも称される版画家 棟方志功
(むなかた しこう)氏が手がけた大壁画『大世界の柵・坤(こん)』です. 幅12.84m、高さ1.75mという大きさは木版画として世界最大で、ホテルのオープンに合わせて大原氏が依頼したものです. この吹き抜けは2・3階の休憩フロアとも繋がっていて、巨匠の大作をホテル内で鑑賞できてしまうという、美術マニアからすればたまらない空間に違いありません.




さらに内観を数枚掲載してます. 玄関天井のギザギザ部分や仕切りの柄など、浦辺氏が設計したと思われるデザインが随所に見られますが、やはり全体的に木の意匠が散りばめられたシックな空間は非常に落ち着きがあっていいです. 個人的には受付カウンターのこのシックさがたまりません. 大理石の曲面とか当時ならどうやって加工したんでしょうね. 気になります.
今回はここまでです. ここまでくると客室も見たいな〜と思いましたが当日は断念. 非常に高級感のあるホテルの印象ですが、シングルならば相場は1万円前後と「アイビースクエア」同様にちょっと贅沢すれば宿泊可能な価格帯なので、今度行くときは泊まってみようかなと思ってます. 興味のある方は是非、倉敷観光ついでにご宿泊を. ではでは今回はここまで〜
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