2016/03/09
李禹煥美術館

0069 - 李禹煥美術館
竣工:2010年
設計:安藤忠雄
住所:香川県香川郡直島町字倉浦1390
皆様どうも. まだまだダウンジャケットが手放せない寒さの続くまま、3月の中頃に差し掛かろうとしています. それでは今回も瀬戸内芸術祭特集、その5件目の紹介にまいりましょう. 前回から紹介し続けている「ベネッセハウス」 「地中美術館」と続く、直島南部としては最も近作となる安藤建築 李禹煥美術館のご紹介です. それでは早速参りましょう.




美術館へは直島の南エリアを結ぶシャトルバスが便利ですが「ベネッセハウス ミュージアム」からなら徒歩10分程度で到着できます. 雄大な直島の森林と瀬戸内海の眺望を一度に楽しめるので、興味のある人は歩いてみてください. 道の左手にグーンと聳える塔のようなものが見えれば、それが美術館の目印で、施設名が掲げられたRC壁の裏手にある階段を降りて美術館の敷地内へと入ります. 初め私はこの階段を職員用の専用階段と勘違いして通り過ぎ、5分ほど歩いても入口が見えなかったため引き返したというエピソードがあります. 敷地内に誰もいないと、入っていいのか不安になります…
この美術館の名を冠する李禹煥(リー・ウファン)氏は『もの派』を主導したことで知られる韓国出身の現代美術家です. 『もの派』とは1970年代前半に広まり、ほぼ無加工の石・木・鉄板などの素材を使用する現代美術の流れを指すものです. 創作者の思想やアイデアによってうまれる彫刻・絵画美術とは対照的に、現実に存在する素材の組み合わせによってモノ単体の力を印象的に映す表現方法として、今なおも根強い人気があります. ここはその李氏の作品を展示する直島初の個人美術館として、2010年の瀬戸内芸術祭に先駆けて開館しました.



階段を降りて通路を進むと、玉石が敷き詰められた一辺30m四方の正方形となった前庭にたどり着きます. 前庭には李氏の作品である『関係頂ー点線面』と呼ばれる石と柱で構成された作品が展示されており、訪問者はこの前庭を通って奥にある本館へと向かうことになります. 前庭から南をみると、瀬戸内海へと緩やかに繋がる気持ちいい芝生空間が広がっていました.
しかしながらこの前庭を実際に撮って写真で見てみると、シュールレアリスムのような絵画芸術のような光景を想起させます. 山間の中に突如あわられる塔と石、正方形に切り取られた前庭と水平を強調するRCの壁、よくよく考えれば奇妙な組み合わせなのに、この光景は超巨大なスケールとなって実際に目の前に存在している. モノの力といいますか、こういう奇妙さを含んだ非現実感を感じられるのも、この美術館ならではでしょう.


それでは前庭を通って本館ですが、受付から奥は撮影禁止ということでアプローチの写真を掲載しています. 瀬戸芸ならば作品パスポートだけで入場可能. 三角形に囲われたのエントランスコートを通って展示室を観覧する構成です. 「地中美術館」と同じように展示室全体は地面に埋もれた地下構造で、太陽のある日は各展示室にトップライトから光が差し込みます. 通路にある石の影に海が投影され、石そのものの存在感を際立たせた作品『関係頂ー石の影』は私が個人的に気に入っている作品です.
個人的にこの安藤建築で面白いのは建物の寸法を、李氏のスタンスに沿ってとあるモノの寸法から決定づけていることです. それはRCの型枠でつかう『三六(サブロク)板』です. 例えばアプローチの壁面高は南側からそれぞれ4.5m, 5.4m, 6.3mと三六板の単位である0.9m(およそ値)の倍数で構成され、展示室の一つであるスペースBの寸法は7.2m×9.0m×4.5mと、ここでも0.9mの倍数が徹底されています. これが意図的にされたものかはわかりませんが、RC建築を主流とする安藤氏が考えた、それに馴染みの深いモノの力を反映させる試みの現れではないかと感じます.
というわけで今回の説明はここで終了. スケールの大きさ、空間の非日常感などを通して感じることのできるモノの偉大さ・力強さは、普通の美術館の展示室内で見る李氏の作品と全く別のインパクトを与えてくれます. ただの石っこをと捉えずに、空間も含めてそこのあるモノと対峙してみるというのも現在アートの愉しみではないでしょうか. 興味のある方は是非ご訪問を、ではでは今回はここまで〜
◆ この記事に関連する建築マップ
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