



犬島の名の由来は諸説ありますが、一条天皇
(平安中期:第66代天皇)が、飼い猫に飛びかかった犬を「いぬしまへつかはせ」と命じて追放した場所として記された枕草子の説が有力とされています. 精錬所によって発展した犬島ですが、それ以前は秀吉の大坂城改修の際も徴収される良質な花崗岩『犬島みかげ』の生産地として栄えました. そんな背景もあってか、集落は立派な石垣の積まれた段々上の地形となり、そこに味のある板張りの民家が建ち並ぶ町並みが形成されています.
そんな町並みのある風景とアートを一体化させた取り組みとして2010年の芸術祭に併せて始まったのがこのプロジェクト. 名前を聞いてピンと来た方もいるでしょうが、直島で先に完成していた
「家プロジェクト」の第二弾と位置付けられます. この設計を手掛けたのはSANAAのメンバーである世界的建築家 妹島和世氏です. SANAAとしては直島
(「海の駅なおしま」)で、西沢氏は豊島
(「豊島美術館」)で、妹島氏は犬島で個々に設計を手掛けていたんですね〜



それではプロジェクトの各施設を順番に見ていきましょう. ちなみに全施設は瀬戸内芸術祭のチケットで鑑賞可能です. まずは犬島港の玄関口のなるチケットセンターから最も近い場所にある"F邸"です. 生垣と石垣に挟まれた道の先にある、石垣で積まれた小高い場所に建つ木造の建物で. 内部には現代美術家 名和晃平氏の『Biota』という作品が展示されています.
もともと倉庫だったものを民家として利用していたということで、壁を全て取り除いて木造とは思えない大空間のあるギャラリーに再生しました. 家の両脇に配置された一部グネグネの壁は、耐震壁としての役割も担っています. その壁の内側は庭なのですが、内部の壁の表面はアルミでできた鏡面で仕上げられており、様々な方向を投影した面白い表情をつくり出していました.




F邸から更に南西の方角へ、石垣のある上り坂の道をしばらく歩いていくと2棟の建物が近接して建っている場所に到着します. 一つは大小様々な円形レンズが仕込まれた現代美術家 荒神明香氏の作品『コンタクトレンズ』が展示された"S邸"、もう一つは華やかな造花が内部に収められた荒神氏の作品『リフレクトゥ』が展示された"A邸"です.
犬島の家プロジェクトが直島の同様のプロジェクトと異なる点は、一部の建物は近代デザインを取り入れた建て替えが行なわれていることでしょう. この2棟の屋根を支えているのは厚さ40mm〜80mm程度まで変化したアクリル板. 近代的な素材が使用されているため、町並みという部分からは浮いた感が拭えませんが. レンズによって映り方が変わる町並みの光景には子供も興味津々で覗いていたのが記憶に残っています.





2棟から少し西へ向かった先には"中の谷東屋"と呼ばれる野外休憩所があります. これも妹島氏設計で、シェルのように曲がったアルミ屋根を数本の円柱で支えるという、シンプルかつ軽やかさのある建築です. 内部にはSANAAが手がけた『ラビットチェア』が置いてあり、座って天井を見ると小さな穴がポツポツと開いています. 屋根板がアルミなので、試しに足て地面を叩くと「コォォォォン、コォォォォン」と反響音が非常に長く響く面白い空間になっていました.
東屋から北へと向かう植物のが欝蒼とした道の先には、現代美術家 下平千夏氏が手がけた『エーテル』という作品が収められた"C邸"があります. 築200年という空き家を一度解体し、古材を整理しながら痛んだ物を新材に変えて組み直したギャラリーです. 角材にせずに使用された重厚な梁のある構造躯体を見ることができますが、写真のようになが〜い行列ができていたため、当時は唯一内部を見れていません. 再訪問をした際にでも感想を書く予定です.



C邸から更に北、犬島港方面への道を歩いた先には、この家プロジェクト最後となる"I邸"へと到着します. 色彩豊かな植物が植えられた庭があるのが特徴で、建物に開けられた大きな一枚窓からは犬島港の先の海が見えるオーシャンビューを見ることができます. ギャラリー内には現代美術家 小牟田悠介氏とオラファー・エリアソン氏の作品を鑑賞できます. 周遊で疲れたならばI邸隣にある民家再生カフェ『Uki Cafe』で一息つくのもいいかもしれません.
というわけで各施設の紹介はここまでとなります. 集落内に様々に散らばったギャラリー施設を歩いて周るというのは、島内の景観を楽しみむこともできるので非常に面白い取り組みだと思います. しかしながら実質新築となるアクリルの2棟と東屋に関してはいかにもSANAA建築らしい、どんな場所であってもブレないこのスタンスには感心させられます. それでは今回はここまで〜
※作品が犬島集落内の数カ所にあるため、Googlemapではチケットセンターの位置を表示しています.
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