2016/04/07




美術館はJR和歌山駅と南海電鉄和歌山市駅との中間に位置する和歌山城の南側に立地しています. 歩きでお越しの場合は、各駅前から出ている和歌山バスに乗車し「県庁前」停留所が最寄りです. 交差点からみると敷地外縁を小高い丘が囲み、その奥手にひっそりと建つ様子は平山城の雰囲気に似ています. 北側の正面玄関へと足を運ぶと、何重にも飛び出た庇が印象的な本館と、近未来チックなデザインの施された巨大な照明灯が正門のアプローチに立ち並んでいました.
国内5番目の近代美術館となるこちらの美術館は、1963年に和歌山城内に開館した「和歌山県立美術館」を拡大発展させ「和歌山県民文化会館」の1階に開館したのが始まりです. しかし時代とともにコレクションが増加し収蔵庫が手狭となったことを受け、和歌山城の南にあった和歌山大学跡地を敷地として建設. 「和歌山県立博物館」とともに1994年に開館しました. 設計を手掛けたのは黒川紀章氏で、和歌山県では唯一公共建築百選にも選定された名建築です.





もう少し美術館の外観を見ていきます. 先ほども少し述べたこの特徴的な庇は美術館の至る所から張り出しています. 形状は庇が一重で独立したもの、アプローチ部にあるように何層にも重なったもの、中には10mほど片持ちで大きく張り出したダイナミックなものまで様々です. ちなみに大きく張り出した庇の下は写真のように階段で入れるようになっていましたが、扉は締め切られていました. 一体これは何なのでしょうか.
黒川氏がコンセプトとしたのは『共生』です. いざ説明すると難しいですが、一見すると対となるモノに対して片方だけを選択するのではなく、双方を織り込ませることという意味合いで大丈夫でしょう. 美術館の庇は和歌山城の屋根のように、アプローチに並ぶ照明灯は山奥を照らす灯篭のように. 近代意匠とは対照的な伝統美を否定せず、可能な限り取り込もうとする思想は、晩年までの黒川氏のスタンスを印象付けるものの一要素であり、近代美術館はその代表的なもです. より詳しく知りたい人は著書「共生の思想」を読むことを強くお勧めします.





それでは内部へと入ります. 入口は庇の下に開いた異様に広い空間の一部壁面をくり抜き、そこにガラスをはめ込んだようなシンプルなもの. 庇という派手なデザインのある外観ながら、その玄関となる入り口がこのようなシンプルさであるというのは、ある意味で今回一番驚かされた部分です. 庇と水平に入口を配置したほうがしっくりくる気がするのですけどね〜 どうしてここに配置したのでしょうか. 僕個人としては不思議です.
近未来感ある黒川デザインが施された受付からチケットを購入. コレクション展は大人340円で当日特別展は準備期間でした. 館内のメインとなるのは2層吹き抜けとなった展示ホールで、写真のように庇の形状を踏襲した湾曲する天井と壁の隙間から光がスゥッと差し込んでくるこの光景が印象的でした. 館内にはこのような自然採光が随所にあり、こういう光の演出があちこちで見られます.




2階へと上がります. 階段の踊り場には現代美術家 北野吉彦氏の作品が展示されており、黒川氏のホワイトな空間に鮮やかな橙が照らしています. ギャラリースペースのようになっている空間は、新建築掲載当時はレストランだったのですが、いつの間にか変更されて今に至っています. 黒川氏の特色としてもう一つ面白いのが、グネグネに曲がった階段手摺や扉の取っ手です. 機能性として考えれば賛否両論な部分もありそうですが、これはこれでユニークだと思います.
というわけで今回はここまでです. お城の庇をこのようにデザインするというのは非常に斬新なものですが、僕自身は浦辺鎮太郎氏の「日本工芸館」のようなど直球なデザインに目が慣れてしまってあまり馴染めないんですね. 「奈良市写真美術館」のように瓦表現でもアリだったのではなんてことも考えましたが、当人の思想に異を唱えそうになりそうなので…では今回はここまで〜
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和歌山県立近代美術館
和歌山県立博物館のお隣に、和歌山県立近代美術館があります。
地下駐車場も両館共通です。
常設展示は撮影も可能です。
次回展覧会の準備中で、2階スペースは閉鎖されてました。
観たことのある作品がまったくなかったのが、ちょっと残念。
訪れたのがちょうど、音楽イベントの日でした。
「和歌山マジカルミュージックツアー」です。
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