2016/04/22



記念館のある『牧野植物園』へは通常の路線バスは設定されず、高知駅から発着の周遊観光バス『my遊バス』(URLリンク)を利用します. 五台山方面までなら往復600円ですが、バスの終便が17時台と早いため、乗り過ごせばタクシーしか手段がなくなるので注意しましょう. 正門を入ると両サイドに土佐の植物が広がる緑豊かなアプローチを歩くとともに、左を向けば高知市内を一望できる素晴らしいロケーションになっています.
高知市中心市街地から南東の位置にある五台山(ごだいさん)の山麓に広がる『牧野植物園』は高知県生まれの植物学者 牧野富太郎(まきの とみたろう)氏の業績を讃える目的で、同氏が逝去した翌年にあたる1958年に開園しました. 現代の植物図鑑の原型となる『日本植物志図篇』の刊行や、ムジナモを始めとした植物の命名に関しては2500種以上と言われており日本植物学の父とも称されています.





正門からのアプローチをしばらく進むと、灰色の屋根が目印の記念館が見えてきます. 入場する場合は建物入ってすぐ右の受付で入園料を払って入場します. 『my遊バス』のチケットがあれば団体料金で入園できる特典が付くのでお得です. 中庭中央の竹林を囲い込むようコの型にぐるりと配置された屋根の下は、木造集成材の巨大な屋根架構が空間を覆う、木の力強さ溢れるダイナミックな空間です.
植物園の面積拡大に伴って1999年に新しく建築されたこの記念館は、牧野富太郎氏の生涯にわたる業績を伝える展示施設であるとともに、植物に関する様々な研究を取り扱う研究施設でもあります. 記念館の設計を手がけたのは内藤廣氏. 前回の「JR高知駅舎」に引き続きのご紹介で、木造による美しい構造デザインを特徴とする内藤氏の代表作のひとつです. 建物はこちらの「本館」と奥にある「展示館」に分かれており、それを長い回廊で結ぶ配置になっています.





それでは本館内部です. 垂木が延々と展示室の奥まで続く様子は、植物の一種である木の力強さを立体的に表現した、まさに牧野氏の記念館にふさわしい木の空間です. 加えてほぼ全体を木材が覆うので、内部に充満する木の香りに癒されてしまいます. 空間を広く見える仕組みは屋根を支える構造にあり、屋根中央の梁を大経口の丸綱管で支えることで柱を少なくすることで、木の垂木を奥まで広く見えるようにしています.
展示室奥には階段があるのですが、この本館棟は2階建てです. レストラン等のある2階は一般の人が自由に入れますが、1階は図書館以外は実験室や標本を保管するための部屋など研究員のフロアで、直接の日射や湿度から守れるように半地下の構造になっています. 個人的に良かったのは、展示室奥の階段を下った先にある図書館の窓から見える竹林が生い茂った緑のカーテン(写真5枚目). ここで本を読めるって羨ましいと思います.




では本館から西にある展示館へと歩いていきます. 両館は160mほど離れているのですが、そこを繋ぐ道は木組みの印象的な回廊によってアプローチがかけられています. 写真2枚目をみると木材の下部分が少し緑がかった色に変色しており、この牧野の森に同化するような経年変化が生じているのが印象的でした. また回廊途中に大木が一本だけあるのですが、その木を切らずに屋根を丸型にカットしていること(写真3枚目)に植物への愛を感じます.
回廊から本館をみると、周囲の木々に隠れるように建ててることがよくわかります. 撮影は春でしたが、夏には枯れている木々に葉が生えて、建物は完全に隠れてしまうでしょう. 高知市民に親しまれる五台山の山麓につくるにあたって周辺住民の期待は結構高かったそうで、内藤氏は建物を低くして周囲の環境に溶け込ませるという方針で建物を設計したそうです. 個人的にはこういうタイプの建築は大好きなのでランドマークのようにならずで良かったと思っています.





回廊を渡って西にある展示館へとやってきました. 本館と同じ外観に見えますがこちらは平屋建て. 加えて北に降りていく斜面に沿って大きく屋根が降りているのも特長です. 中庭には牧野氏が命名した250種の植物が植えられており、本館よりもより中庭感があります. 中庭にある四角い水盤は愛媛出身の美術家 田窪恭治(たくぼ きょうじ)氏の『感覚細胞』と呼ばれる作品で、周囲の木々が水盤に映るのが幻想的でした.
周囲に溶け込むような建物ながらも、なぜ屋根がグネグネした有機的な形しているのか、原因は五台山に吹く風にあります. 山麓の環境に加えて台風が頻繁にくる高知では巨大な風圧に耐えれる屋根が必要でした. そこで地形に合わせるように架構システムを考え、五台山の風圧を柔軟に受け流せるようようなこの有機的な屋根になったということです. 説明不足な点もありますが、森に隠れた建物のにはダイナミックな架構空間が広がるというギャップは実に面白いです.




最後に展示館の内観です. こちらでは牧野氏の生涯に関する資料をメインとした展示がされています. 室内は本館よりも幅が広く、支持する部材がくの字にポキンと折れたような不思議な金物ジョイント(写真4枚目)が並んでいるのも特長的でした. また照明のデザインが木の枝を枠組みとして、所々に押し花?が施されたオリジナルのもので、植物園らしい素晴らしいデザインだと感心していました(写真3枚目).
牧野氏が育った環境で触れ合った植物に囲まれたこの植物園は、牧野氏が晩年に目指した桃源郷に他なりません. そんな植物園に建つこちらの記念館で、木の力強さに満ちた牧野氏の世界観&内藤建築に触れ合ってみるのも高知ならではの面白いところではないでしょうか. ではでは今回なここまで〜
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